二日酔いで痛むこめかみをおさえながら、ガラスのコップに水道水を注ぐ。弾ける水を眺めながら、おれはこのコップを水を飲む以外の目的で使ったことを思い出していた。
女の顔に水をかけたのだった。
きっかけは些細なことだった。あいつが食器をすぐに洗わないだとか、おれが靴下をいつも裏返しにするだとか。そうだ。そんなくだらない言い争いの中で、
女の顔に水をかけたのだった。
化粧が崩れて気もちが悪かった。おれはまだ女が化粧をしていたことに驚いた。こんな醜い言い合いをしている男の前で、まだ着飾っていたいのか、と。
その瞬間、おれは女の業の深さに戦慄した。
女が化けものに思えて、もう顔も見たくなくなった。静かにコップを机に置いて言った。
「出て行ってくれ」
は、と意識を戻すとコップから水が溢れていた。あわてて水を止める。
「やだ、もったいない」
いつのまにか隣にいた女房が眉をひそめる。おれは苦笑いして、ぐい、と水をあおった。
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テーマ:ガラスのコップ