神さま、ありがとう。
へぇ、水かきないんだね。からの、泳ぐのへたでしょ。は9歳のわたしにとって、神さまみたいな言葉でした。おばさん、ありがとう。わたしは水かきがないからみんなより泳げないんだ、とじぶんを肯定するのにとてもべんりです。あなたのくれた、水かきないんだね、はほんとうに。
それまでのわたしは、ねぇねぇ、50メートル何秒だったの。と訊いてくる悪魔になにも言うことができませんでした。ただ顔を赤くして、うつむいて、悪魔が去るのを願うだけしか、できなかったのです。わたしは惨めでした。
でも、もう大丈夫。わたしにはあなたのくれた言葉があります。悪魔の訊く、50メートル何秒だったの。も恥ずかしくない。わたし、50メートルも泳げないよ。と笑顔で返事ができます。
おばさん、わたしはつらい、地獄のような、体育のプールから救われたのです。わたしは、25メートルも泳げません。クロールも平泳ぎも、背泳ぎだってできません。でも、大丈夫。そうです。
「だって、わたし、水かきないんだもん」
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テーマ:手のひら