白昼夢
太陽が一番高く昇っている時間、ぼくは強い日差しがあたる窓際で冷えた水を飲んでいた。暑い暑いと意味もなく喉を震わせながら、ふと手元を見て驚く。日の光でガラスが見えないからか、手の中に『水』という形のないものが浮いているような気がした。ただの水が宝石のようにキラキラと輝いていた。
この中に世界がある。瞬間、強烈な征服欲が脳を走り回る。世界の、生まれたての赤ん坊も死んだ目をした若い女もタキシードを着た新郎も泣いている老人も壁に埋まっている死体も、ぜんぶぜんぶぼくのものだ。
「おーい、そうめんできたよぉー」
潰してやりたい。世界を潰してやりたい。手に力を入れる。ぼくのものなら許される。
「ねぇ、そうめん食べないのー?」
母の声にハッとした。手の中にはなんの変哲もないガラスのコップ。ぼくは今までどこにいたんだろう。急に怖くなった。うん、すぐ行く、と返事をして、ぼくは水を飲みほした。
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テーマ:ガラスのコップ