あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、あなたの横の通り雨が怖く、

雷が鳴ったら、どうしよう。怖い。

『ごめんなさい、あたし、あなたを愛しつづける自信がありません。あなたのことはだいすきだけれど、あなたの…、他の女の子たちが怖いの。どうしようもなく怖いの。怖くてしかたがないの。だから、だから、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、あきらめて、』

雷が落ちたら、どうしよう。死んじゃう。

『……………だれですか?』

響いてきたのは無機質な声。あの人じゃない。霧島くんの声じゃない。青治くんの声じゃない。

『え…っ、あ、あの、これ、霧島青治くんの番号、ですよね…?』

無機質な声で、ちがいますけど、俺、今日、新規で契約したんで、前の人の彼女さんですか、あなたで四人目ですよ、あーあ、最悪、解約しようかな、ガチャッ!

(どういうことどういうことどういうことどういうことどういうことどういうこと)

嘘、よね?だって、青治くんがあたしを、捨てるなんて、そんなの、絶対な、

「い、絶対ない、絶対ない、だって、彼はあたしを愛しているもの」

プルルルルルルルル、プルルルルルルル、

(非通知!)

彼だ!と舞いあがって、ひどいひどいと罵ってやろう、と応答ボタンをうきうきしながら押したら、逆に罵られた。

『ちょっとあんた!あいつを独占したいからって番号むりやり変えさせるなんてどうかしてんじゃないのッ?そんなにあいつを独り占めしたかったらあたしたちに言えばいいじゃない!どうッ?なにか言うことないのッ?ちょっと!なんとか言ったらどうなのよッ?』

あなたで四人目ですよ。無機質な声が蘇る。こんな電話がかかってくるということは、くるといいことは、

『わ、わたしで最後なんですね…?』

彼女が言うには、わたしと同じく青治くんといきなり電話が通じなくなったらしい。そして、青治くんの他の女の子のうちのだれかが、青治くんを独占したいがために、むりやり番号を変えさせたのだろう、と思い、あらかじめ青治くんの着信履歴からチェックしておいた番号に電話をかけた。けれど、だれもがそんなことはしていない、と言う。もちろん彼女もしていないし、あたしもしていない。

「青治くん」

…ということは、可能性は一つしかない。青治くんが自分で変えたんだ。

「あたしね、青治くんに、ずっと会いたかったんだよ?」

青治くんのいるクラブ(青治くんはめだつからすぐわかっちゃうの)で、青治くんの腕に手をまわして、青治くんの肩に頭をすりよせて。さぁ、あとはあたしの髪を梳くだけ、というときに、青治くんは言った。

「困ったなぁ。捨てたはずなのに、戻ってきちゃったの?」

………え?

「ちゃんと捨てただろう?だめだよ、ゴミなんだから、戻ってきちゃいけないよ」

捨てた?ゴミ?だれが?なにを?

(………あたしを?)

え、嘘、青治くんが、青治くんが、あたしを、ゴミ、って言ったの?

「や、やだ、青治くん、ジョーク、」

でしょ。と言えなかった。青治くんが、それより、一拍先に、冷酷な瞳で、

「ジョークじゃないよ」

さようならと言いながら捨てた、ありがとうと言いながら捨てた、ごめんなさいと言いながら捨てた、だいきらいだと言いながら捨てた。

「きみも、けっきょくはゴミだ」

おれの存在を確立してはくれない。そんなものはいらない。いつでも捨てられる。今にでも、すぐにでも。未練なんてない。

「あたしだけは捨てられない、なんていう過信をしないほうがいい。惨めになるよ」

はぁ、もういいかな、約束があるんだ。

「い、いやっ!まだ、まだだめっ!」

…ねぇ、きみ、迷惑だって気づかないの?重いってわからないの?勘ちがいだって知らなかったの?

「愛されてるにちがいないって」

どうして信じられるの?愛してない。わかる。あ、い、し、て、な、い。ねぇ、まだ俺に言わせる気なの。

「…ッ、いっ、いい!いい!言わなくて!わかったから!」

幻滅という顔をされてしまった。わたしはそれを繕うために、最後に、最後に訊かせて、と終止符を打った。

「わっ、わたし、わたし、さよならの人?それとも、ありがとう?ごめんなさい?」

幻滅、ううん、絶望、うっ、ううん、幻滅した顔で、顔で、青治くんは、

「ねぇ、きみ、ばっかじゃないの?ぜんぜんわかってないじゃないか。だいきらいだよ。だ、い、き、ら、い」

わかる。きみを捨てるために家もケータイもメルアドもぜんぶ変えたってこと。きみは俺に拒絶されたってこと。それをわかっててここに来たの?それとも、なんにもわかってないの?

「…死にたい」

ああ、死にたい、死にたい、死んでしまいたい。

「青治くんに愛されないなら死んだほうがまし」

そんなにわたしのことがきらいだったなんて、じゃあ、どうしてわたしにやさしくしたの、どうしてわたしを抱いたの、ひどい、ひどいひどいひどい、あたしは、あたしはこんなに青治くんを愛しているのに!

「そんなにかるく死ぬなんて言わないでくれるかなぁ」

きみはひとりよがりがばれて恥ずかしいだけだろう。きみはおれに愛されてるからなにをしてもいい、と思っていたね。自分から別れてもいい。でも、別れないで。あたしにすがりついて。ひとりよがりだ。恥ずかしいったらない。ほら、しかも、こんな他人に囲まれているよ。恥ずかしいね、恥ずかしい。だから、死にたい、ってばっかじゃないの。

「そ、そんなかるい気もちじゃない!あたしは青治くんを愛してる!」

その瞬間、青治くんは、キッ、とあたしを睨んで叫んだ。

「しつこいんだよ!」

きみは死ねないし、おれも殺せないよ。きみは人一倍、自己愛が、思い込みが、恐怖心が、強くて強くて強すぎて、それを他人に押しつけて、満たされて、ああ、もう!

「だいきらいだ、きみが、ぜんぶ!」

顔も見たくない、声も聞きたくない、もう、頼む、おれから消えてくれ!

「…ひどい、」

わたしは消えるしかなかった。あそこまで、言われたら、消えるしか、…ッ、ひどい、ひどい、わたし、青治くんがすきなだけなのに、なんで、あんなひどいこと言われなきゃいけないの、青治くん、ひどい、ひどいよ、青治くん、

「あの…、大丈夫ですか?」

電信柱にしゃがみこんで、泣いてる、わたし。に、話しかけたのは、やさしそうな大学生くらいの、男の子、で、わたしは、わたしはわたしは、

「大丈夫、じゃない」
「どうしたんですか?」
「愛してる、男の人に、捨てられたの」
「あ…っ、」
「わたし、悲しいの、つらいの、ねぇ、」
「い、いけませ、」
「お願い、慰めて…?」

だれでもよかった。慰めてほしかったから、わたしは、その男の子に抱きついて、泣いた。腕をまわして、首すじに吐息を滲ませて。

(そういえば、青治くんと逢ったのも、こんな夜だった、ような気がする)

淡い記憶はすぐに消化された。そして、たぶん、この夜、も、きっ、と、

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