梅雨真っ盛り。しとしとと降り止むことのない雨をぼおっと眺めながら、ため息を1つこぼす。わたしは誠凛女子テニス部部長。とにかくテニスが大好きだ。でもこんな天気の日は、外で練習出来ない。テニスは外でやるから楽しいのに。
何度目かわからないため息を吐いて、練習を再開する。今日は室内で筋トレ中心のメニュー。顧問が交渉してくれて、バスケ部が練習している体育館の半面を借りている。バスケ部も試合が近いのに申し訳ない。体育館で出来る練習は限られてるけど、軽くサーブが打てるだけでもありがたい。
簡易ネットに向かってサーブ練習。テニスコートにはない床の吸着に戸惑う。これはあんまり打たない方がいいと判断し、部員に指示を出す。ボールを拾い集め、一旦休憩に入る。
「テニス部も大変そうだな」
「日向くん」
「もうすぐ試合なんだろ?」
「そうなの。来週にね。バスケ部も試合近いのに半面借りちゃってごめんね?」
「こういうときはお互い様だ」
「ありがとう、助かる」
バスケ部の部長の日向くんとは、一年の時から同じクラスで、お互い部を立ち上げた部長同士で仲がいい。二年になってからお互い後輩が出来て、よく日向くんから「最近の一年は〜」って話をよく聞く。なんだかちょっとおじさんくさくておかしい。
「ねえねえ、日向くんがいつも言ってる後輩コンビってどの子?」
「ん? ああ、あそこの薄いやつと、今ダンク決めたデカいやつ」
「ほおお…凄い今の」
「アイツはホント手が焼ける」
「そうなんだあ。でも、とっても楽しそうにバスケするんだね。かっこいいなあ」
例の後輩コンビの大きい子、とにかく楽しそうに走って、シュート打って、とてもかっこいい。薄い子もボールを持つと目つきが変わって素敵。わたしもテニスが大好きだから、同じようにスポーツに打ち込んでいる彼らを見てると、なんだか嬉しい。
「名前」
「ん、なあに?」
「さっきから火神ばっかり見てる」
「火神?」
「デカい方」
「ああ、火神くんって言うの」
「…ああいうのが、好きなのか?」
「へ?」
「いや、何でもない」
「何よ、気になる」
「じゃあ俺練習戻るから」
「あっ」
「火神じゃなくて、俺を見とけ」
「えっ?」
彼の人差し指にとんっ、と額を弾かれた。ちょっと不機嫌そうに眉間に皺を寄せて、でも耳はほんのり赤くて。この展開に驚きを隠せなくて、彼の言った言葉の意味を完全に理解するまで少し時間がかかってしまった。
「日向くん、わたし勘違いしちゃうよ」
「部活が終わるまでしててくれ」
「なにそれ、意地悪」
「だアホ。火神ばっかり見てたから、お仕置きだ」
残り少ない休憩時間が、いつもよりほんの少しだけでも長くなればいいのになあ。わたしの目にはもう日向くんしか見えていなくて、そんな自分がおかしくて、ちょっぴり恥ずかしかった。
ラブストーリーの幕開け
遠くで密かにわたしたちを見ていた部員に茶化されたのは、言うまでもない。
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