暑苦しい体育館。選手のかけ声、歓声、バッシュが床を擦る音、ボールが床を跳ねる音、とにかくいろんな音が混ざり合って木霊して、わたしは頭がくらくらした。
眩しい。照明に照らされた彼らの汗が。点を決める度に弾ける彼らの表情が。
わたしはたまに虚しくなるんだ。
マネージャーとして彼らとともに勝利を目指し汗を流す日々。彼らが練習しやすい環境づくり、疲労やメンタルのケアがわたしの仕事。同じ誠凛高校男子バスケットボール部員として彼らとともに青春を駆け抜ける。でもわたしは、リコと違って専門的なことはわからない。しがないごくごく普通のマネージャーだ。わたしは、試合というステージで、彼らとともに戦うことは出来ない。見守るしか出来ないんだ。
「今日はお疲れさま。いい試合だったね」
「ああ、そうだな」
「みんな、かっこよかった」
勝てば嬉しい、負ければ悔しい。彼らとそんな気持ちを共有できるだけで満足な筈だった。今でもそう思ってる筈なのに。彼らは眩しくてかっこよくて、遠い。
「どした、暗い顔して」
「ん? なんでもないよ」
「そうか?」
「ね、日向くんはさ、バスケすき?」
「ああ? 好きじゃなかったらあんなキツい練習出来ねぇよ」
「そうだね」
「名前は、」
「ん?」
「名前は、バスケ、好きか?」
「そうだなあ…」
すっかり日も暮れた街。揺れる街路樹。一歩先を歩く日向くん。部を背負う大きな背中に、なんだか目頭が熱くなる。
「わたしは、わたしは、バスケをしてるみんなが好きだよ」
びっくりしたようにこちらに顔を向ける日向くんがおかしくて、彼を追い越すように大きく二歩進んだ。
「ちなみに、日向くんはその中でも特別好きだよ」
「…だあほ」
「あはは、顔真っ赤!」
「うるせー。ああもう…そういうのは男に言わせろ馬鹿」
「全裸で?」
「ちげーよ、だアホ!」
「痛っ、もう叩かないでよ〜」
「…ありがとな、名前」
「え?」
「マネージャー、頑張ってくれて」
「う、うん」
「お前が支えてくれてるから、俺らは思いっきりバスケが出来るんだ」
引っ込めた筈の涙が、すっと落ちていくのを感じた。青春っていうのは、なんて汗くさくて青臭くて、美しいんだろう。
青春の寄り道
(そんなの、マネージャーのやりがいがあるってもんです!)
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