「賢二なんか…、賢二なんか迷子になって一生家に帰れなくなればいいんだ! ばかばかばか!! もう知らない!!」
わたしはずっと、賢二がすきだった。小さい頃からずっと。すきだって気持ちも隠さずにいつも伝えていた。でも賢二はいつだって軽く受け流して、わたしに答えをくれなかった。そんなもどかしい関係のまま何年も経って、わたしの知らないところで恋して、フられて。ざまあみろ、罰当たりなやつめ。
「賢二のばか…」
街は豪雨。傘はさっきのファミレスに置いたままだ。制服も髪も身体も心も、全部びしょ濡れ。全部賢二のせいだ。今まで散々わたしの気持ちを受け流してたくせに、今さら付き合ってくれ? バカじゃないの。フられて悔しいから? 誰でもいいんじゃないの? 生憎わたしはそんなに都合のいい女じゃない。ふざけるな。
スマホが着信を告げる。ディスプレイには憎き名前が。一応防水だけど、さすがにこの雨じゃ壊れちゃうかな。みんなの連絡先が消えちゃうのは困るな。友だちと撮った写メも、動画も、いっぱい入ってる。そういえばこれに買い換えたとき、使い方が全くわからなくて賢二に教えてもらったっけ。はは、もう頭の中ぐちゃぐちゃだよ。
「バカだな、わたしも。なんであんなやつずっとすきだったんだろ。なんであんなやつ…、ふっ、うあ…あああ」
未だにスマホは鳴り続けている。出てやるもんか。どうせあの超然方向オンチはわたしを見つけられない。それでいいんだ。
「わたしが居なきゃ、一人で家に帰れないくせに。一生迷子になってろ…ばか」
「バカはお前だ、バカ」
声がする方を恐る恐る振り向くと、わたしと同じ様にスマホを握り締めて、全身びしょ濡れの女たらし狐野郎がいた。
「えっ、賢二、ここまでひとりで来れたの?」
「あ? 当たり前だろ」
「ここ、覚えてるの?」
「あ? 当たり前だろ」
「告白も、覚えてるの…?」
「当然だ」
ここは街を見下ろせる高台。中学生のころ、初めてわたしが賢二に告白した場所。2回目も3回目も、ここで告白した。いつも答えをはぐらかすくせに、毎回ちゃんと来てくれて。そんな優しさに毎度毎度ときめいて。そんな優しさに、甘えていたんだ。
「俺が今まで、名前からの告白にちゃんと答えを出さなかったのは、名前を幸せにする自信がなくて、でも名前との関係を、壊したくなくて…それでも変わらずに告白してくる名前に甘えてたんだ。それで、高校離れて名前と会う時間が減って、その分あいつらとツルむようになって、それで水谷サンのこと、好きになって、でも結局フられて、改めて名前の存在の大きさに気づいて、それで、それで、あーもう言いたいことが多すぎて整理できねぇ」
「賢二、もういいよ。結局、本当にわたしのこと好きになってくれたんなら、それまでの過程は多目にみてあげる。だから、ここでもう一回、ちゃんと言って?」
「名前が好きだ。これからもっとたくさんの時間を、名前と過ごしたい。俺と、付き合ってくれ」
「仕方ないから、付き合ってあげる!」
いつの間にか雨は止んで、街がオレンジに照らされていた。何度もここでわたしの背を押してくれた夕陽にありがとうを。そして、やっとわたし、恋が叶いました。
共にメロウに溶けましょう
「あははは、びしょびしょだね!」
「絶対データ飛んだわこれ…」
「制服気持ち悪い!」
「名前、」
「ん?」
「鞄、ファミレスに置いてきた…」
「あ」
「このまま取りに戻るか」
「うん!!」
やわらかく笑うあなたのその表情を、誰よりも近くで見ていたいのです。
─────────────────────── 無駄に長い/(^o^)\ そしてイミフ/(^o^)\/(^o^)\
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