どきどきどきどき 心臓がきゅーっと締め付けられて苦しくなる。それが恋というなら、今わたしはそれを人生で初めて体験している。
「たたた、高杉くん…」
今の状況を簡単に説明すると、背中には冷たい壁、わたしの目の高さの左側には高杉くんの逞しい腕。つまりはあれだ、少女マンガでよくみる、女子は誰だって憧れるシチュエーション、壁ドンである。
「なぁ、名前」
「ははは、はい」
「お前、土方と付き合ってんのか?」
「ひ、土方くん…? 土方くんとは、友だちだよ…?」
「そうか」
「なんでそんなこと聞くの?」
「お前最近、よく土方と喋ってる」
「それは、席替えして隣になったから、前より仲良くなって…」
「気にくわねぇ」
最近よく高杉くんはわたしに対して不思議な行動をとる。お昼休みに神楽ちゃんとお弁当を食べていたら、それまでの授業には居なかったのにふらりと現れてはわたしのお弁当の玉子焼きを無言で盗んでいったり、放課後ひとりで下校中にわたしの家までストーキングをしたり。今ではわたしから一緒に帰ろうって声をかけて家まで送ってもらっているけれど。
「名前は土方みたいなのが好きなのか?」
「へ? なんで?」
「だってお前土方と喋ってるとき、俺と居るときよりにこにこしてる」
「そ、そうなの…?」
「ああ」
わたしはどうしたらいいんだ。獲物を狙う肉食獣みたいな眼をした高杉くんに、わたしはたじろぐしかできなかった。
「ね、高杉くん」
「なんだ」
「今日も学校終わったら、一緒に帰ってくれる?」
「あ? ああもちろんだ」
「ありがとう。それと、もう一つお願いがあるんだけど、いいかな?」
「なんだ?」
「あ、あのね、わたしね、高杉くんと居ると、凄くどきどきして、胸がきゅってなって、苦しいの。だから何でなのか神楽ちゃんと妙ちゃんに聞いたの。そうしたらね、それは恋だって…。わたし、こんな気持ち初めてで、高杉くんと居ると緊張して上手く喋れないし、恥ずかしくて頭の中ぐちゃぐちゃになって…。でも、わたし、わたし、高杉くんのことっ…」
「名前」
「…?」
ぎゅっと瞑っていた瞼をゆっくり開くと、高杉くんは頬を真っ赤に染めていた。いつも強面でちょっと怖い高杉くんも、こんな表情するんだ…。でもきっと、わたしも今現在同じ様な状況なんだろう。
「名前が、好きだ」
狼と赤頭巾
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