「こら、晋助」

パシッと弾かれた俺の右手の甲。

「イテッ」

「ご飯食べながら携帯弄らない」

「はいはい」

「あーもう、肘つかない!」

「わーったよ」



暖かい昼休み、教室の窓際、新学期。桜はもう散り始めたが、街も人も自然も、まさに春真っ盛りという感じである。目の前の口うるさいやつは腐れ縁というかなんというか、まあ彼女なんだが。

こいつとは所謂幼なじみというやつで、よく衝突してきた仲だが、今までなんだかんだと一緒に過ごしてきた。俺は昔から好きだったんだか、好きなやつほどなんとやら、だ。春休みに入ってすぐ、同じく腐れ縁の銀時と辰馬とヅラに嵌められて流れで告白して、付き合うことになったわけだが、今まで思いを寄せながらもただの幼なじみとして接していたのが急に恋人同士というのは、なんだか変に緊張してしまっていけねぇ。あれ、俺今までどんな風にこいつと話してたっけ…?




「しん、コーヒー牛乳ひとくちちょーだい」

「あ、ああ」

「さんきゅっ」




ここここれは間接キス…! って俺は童貞か。それなりに女経験はある俺だが、真面目な交際は始めてだ。自分がこんなにも臆病でウブだったということには見て見ぬフリをした。



手を握りたい、抱きしめたい、キスをしたい、それ以上もしたい。何より、少しでも長く側に居たい。こんなにも自分が他人に対して欲をもつようになるなんて思ってもみなかった。でもその欲は吐き出さずに飲み込む。怖いから。日に日に溢れ出す欲求で、こいつを押しつぶしてしまいそうで。



「おーい、名前」

「ん、銀ちゃん」

「今度の新入生歓迎会、お前生徒代表挨拶な」

「えー、またー?」

「またってお前生徒会長だろ」

「そっか」

「頼んだぞー」

「はあーい」




ほら、今だって、俺の中で醜い感情が蠢いている。他の男と喋るななんて言わねーよ。でも、無防備に頭撫でられてへらへら笑って、他の男に媚び売るような真似はしないでくれ。いくら腐れ縁でも、だ。名前は俺のモンだ、手ぇ出すな。今にも俺は、名前に近づいてくる男全てを、殺してしまいそうなんだ。



「晋助? どうしたの、ぼーっとして」

「いや、別に」

「早く食べちゃわないとお昼休み終わっちゃうよ」

「ああ」

「…しん」

「あ?」

「今度の日曜日、2人でお花見しようよ。わたし、お弁当作るからさ」







こんな醜い俺を、君は愛してくれますか




醜態



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