「ね、晋助」
「あー?」
「もうすぐ春だねぇ」
「そーだな」
高校生というのは素晴らしい。義務教育ではないのに当たり前のように進学して、勉強が出来てスポーツも、そして恋も。たくさん時間があって尚且つ大人に守られている。中学生のときよりも世界は広くて、やりたいことが日々増えていく。そして大学生よりも自由は拘束されているが、それは自己責任、自己負担を軽減してくれる。こんなに素晴らしい三年間があっていいのだろうか。
最近テレビで見たんだ。どこかの発展途上国では子供だって立派な労働源で、勉学に励むことすらさせてもらえないとかなんとか。だから日本は恵まれているのだそうだ。テレビの中の人たちは感動の涙とやらを流していた。
「ね、晋助」
「あー? なんだ」
「わたしたち、恵まれてるんだって」
「はあ?」
「勉強して遊んで恋して、それを当たり前に出来るわたしたちは恵まれてるんだって」
「まあ、そーだなあ」
「恵まれてるのはいいことだけど、それが出来ない人の前では、わたしたちは悪い人になっちゃうのかな。でも、毎日自分は恵まれてるって実感しながら生きるなんて難しいよね。忘れちゃうもん」
「…恵まれてるかそうでないかなんて他人が決めることでもねえし、それにそんなことで人間を二分化したって、何にもならねえよ」
「うん」
「自分は恵まれてるからどうこうするってんじゃダメだ。そんなん関係なしに、今日食った飯は旨かったって思えることが大事なんだ」
「わたしバカだから、あんまりよくわからないや」
「俺も」
「ええ…」
「でもまあ、恵まれてるのがありがてえことに間違いはないだろ。それを当たり前だと思ってちゃ罰当たりなんだろうな」
「そうだねぇ」
「あんまり難しいこと考えても迷走するだけだ。今やるべきことは、側にあるモンを大切にすることだ。人間は、身近なモンほど見落としちまう生き物だからな」
「晋助はすごいね」
「大切なモン無くして、お前と出会って、そう思えるようになったんだ。お前は俺にとって、絶対に無くしたくない存在だから」
もうすぐ春がやってくる。あなたの街にも、必ずやってくる。側にある大切な温もりと、当たり前のようにやってくる今日を護って、平凡で平穏な明日を迎えましょう。
当事者の憂鬱
この事象においての当事者はわたしで、わたしの人生論に基づいて生きていくのです。
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