「夕飯何がいい?」
「名前ちゃんの手料理なら何でも!」
「…私、まだ一度も食事に手抜いてないよね?」
「もちろん」
ヒロトの友達が襲来したためこんな遅い時間になってしまった。仕方がないから今日はオムライスで我慢してもらおう。
「名前ちゃん名前ちゃん、」
「ん?」
「ごめんね、俺の友達が急に…」
「悪いと思っているなら手伝いなさい。ほら卵割って」
「うん!」
何故か楽しそうに卵を割るヒロト。何気にうまいな。私はというと、さっき炊けたばかりのご飯をチキンライスにすべく、冷蔵庫からトマトケチャップを探している最中である。どこいったケチャップめ。
「俺さ、」
あ、ワサビの新品の箱の裏にケチャップらしき物体のキャップが見えた。迷いもなく私はそれへと手を伸ばす。
「名前ちゃんに出会えてよかった」
「!」
いきなりのその言葉に私は見つけたばかりのケチャップを蓋が微妙に開いていたのにも関わらず握りつぶしてしまった。私の手はまるで血のように赤くドロドロとしている。ふざけんなこのケチャップ風情が…!いやこの場合ヒロトに対して怒るべきか。
「俺、名前ちゃんの事が大好きだ」
「……あっそ」
冷たいなぁなんて苦笑する奴の辞書には恥という単語はないのか。手についたケチャップをシンクで洗い流していると、突如インターホンが鳴った。我が家のインターホンは何故かダースベイダーの曲なので謎の緊張感に包まれる。
「、ヒロト取り行ってよ」
「う、ん」
よかった、ヒロトが行ってくれた。正直、あの曲が流れてから玄関の鍵を開ける勇気はないのだ。手についたケチャップを洗い終わり、再びチキンライスの制作へと移る。少し大きめのフライパンはどこにあったっけ。
「名前ちゃん、郵便だった!」
「へぇ、誰から?」
「俺の姉さんから」
「……宇宙から届いたわけ?」
「ううん、俺の姉さんは日本人だよ」
「………」
もうツッコミをいれる元気さえもない。姉貴が日本人で何故お前は宇宙人なんだ。
ニコニコしながらその手紙を渡すヒロト。見れば宛名はヒロトではなく私になっている。ますます意味がわからん。
「名前ちゃんの所にいるって言ったら姉さん心配しちゃって」
仕方なく私はお姉さんなる方からの手紙の封を破り中身を読んだ。
手紙は日本語で書かれていた。
「………ヒロト、あんた愛されてんね」
「え?」
「ヒロトの事をよろしくお願いします、だって」
「姉さんが?」
ひどく驚いた様子のヒロトを見ると、全くの予想外だったようだ。
「お姉さんにお願いされちゃったから、仕方なくヒロトの面倒見てあげるよ」
「ありがとう!」
冗談が通じたのか通じていないのか分からないが、ヒロトは私に満面の笑みを向けた。
←