帰り道、私は指定された下駄箱に寄って上履きからローファーに履き替えた。この春買い替えたばかりのそのローファーはピカピカで、ツヤツヤだ。


「名前ちゃん、何してんの?」

「ん、ヒロトも早く靴履き替えなよ」

「何に?」


そう首を傾げる彼の足元はいつもとかわらない靴、いやブーツ。こいつもう履き替えたのか、と思ったが、よくよく考えてみれば私の教室にいた時もこの靴だった気がする。はぁ。


「日本ではね、外靴と中靴で履き替えなきゃならないの」

「へぇ、めずらしい文化だね」

「そうでもないと思う」



未だに感心しているこいつをひっぱって駐輪場へ向う。ええと、私の黄緑に塗られたママチャリはどこに停めたっけ。


「うわぁ、自転車だ!」

「はいはい自転車ですからそこどいて」

「俺にも乗らせて!」

「うんうんわかったから」


やっとも思いで私の愛車を見つけ出し、前に跨がる。


「ほら、後ろ乗って」

「前がいいー」

「初心者には無理」

「俺、運動神経いいから平気だって」

「うざ」


まぁ帰ってもすることは特にないので好きにやらせてみる。嬉しそうに自転車にまたがる彼の自慢の足は地面にべったりとくっついてなお余っている。決して私の足が短い訳ではない、決して。ていうか今何時だろう?ケータイを取り出して時間を確認して見ると充電がのこり僅かになっていた。やばい。


「見てみて名前ちゃん!」

「ん?」


ヒロトの声が聞こえたのでちらっと視線を向けると、なんと奴は両手を離して乗り回していた。うっぜー。


「ね!乗れたでしょ?」

「はいはいうぜぇなこのやろう」

「ほら早く名前ちゃん後ろ乗って!」

「え、」


まともに答える暇も与えられずに手をひかれ半ば強引に荷台に乗せられる。ちょっと、尾てい骨打ったし!


「飛ばすから捕まってて」

「は?ちょ、待っ…」


私の自転車はママチャリの限界に挑むかのように加速していく。気を抜いたら荷台から吹き飛ばされそうだ。みるみるうちに景色が後ろへ飛んでいく。風をきるどころの話ではなくてもはや髪を振り乱しているかんじだ。思わず前にいる奴のお腹のあたりに手を回す。

すると突然キキッと音を立てて急停車したので図らずに思いっきり抱きついてしまった。うわ、恥ずかしい。ていうかなにごと?


「ちょ、ヒロト、どうしたの」

「あ、いや、その、」


妙にどもる彼。肝心な事は何一つ言わないでさらに自転車は止まったままだ。もう、早く言ってよ。


「だって、名前ちゃんが急に、抱きついてくるから…」


風に吹かれて見えた彼の耳の色は私の顔といい勝負だと思う。








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