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「不動、」
『鬼道ちゃん、黙って聞いてくんねぇ?』
名前の家にいた時にかかってきた1本の電話は不動からだった。しばらく名前と話した後俺に代われというので驚きつつも受話器を取る。そして言われたのがこれだ。
『俺さァ、名前の事好きなわけ。』
「…は?」
意味が分からず聞き返してしまう。
『まんまの意味だよ、分かる?
で、名前の飼ってる猫も名前が好きなわけよ』
「猫、だと?」
『ジロウって名前なんだとよ』
意味ありげに囁く不動の声に、俺は何かが閃くのを感じた。
「、佐久間か…?」
『さぁな。でも名前もその猫の事が好きらしいから俺の出る幕なしっつーこと』
「名前が…!?」
『今晩猫が恩返ししに行くっつってんからさァ、天才鬼道ちゃん、そのへんよろしくたのむぜ?』
「……」
そんな会話をしたのがついこの前。今や名前の家に行けばかなりの確率で佐久間にあうことになるし、まぁそういう事なんだろう。あの佐久間だから、なんて余裕こいていたのが災いしたようだ。まさか佐久間に名前をとられるとは。
そして、俺にとってもかなりいい経験になった事もある。
「…いいのか不動」
「ハッ、幸せそうじゃねぇの。……名前はアイツが好きなんだ、俺は遠くで見てるだけで十分なンだよ」
「…そうか」
不動とは色々あったが、またさらに意外な一面を見ることが出来た気がする。なるほど、名前がなつくわけだ。哀愁に満ちたその横顔を俺は穏やかな気持ちで眺めていた。
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