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「ヒロト、ヒロト」
「ちょっと名前、スカート短くない」
「いいの」
今日は名前が着替え終わる方が早かった。
彼女好みのとびきり甘い卵焼きをキッチンでつくる僕の背中から
名前はくっついて離れない。
「ん―、いいにおい」
「砂糖たっぷり入れたからね」
「ちがくて、ヒロトが」
僕の腰に手を回して
すんすんと匂いをかぐ名前。
彼女はなんの気もなしにやっているのだろうけど
僕としてはかなり恥ずかしい。
「ち、ちょっ、名前」
「ヒロトの匂い、幸せ」
たぶん後ろでへらへらっと笑っているのだろうけど
僕のこのすっかり紅く染まった顔を見せるわけにはいかない。
少しは僕の事を男として意識してほしい。
「ヒロト、卵焼き」
「あっ」
半分焦げかけた卵焼きを見て、やっぱりそんな願いは叶わないのかと少し落ち込んだ。