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「うっ、んん、ぐすっ、ヒロトぉっ…ぐすっ」
一朗太との関係を誤解されたと思い久しぶりにヒロトの家の自室へ帰ると、そこは出てきた時と一切変わっておらず、気づけば涙が溢れていた。あの頃はずっとヒロトと一緒で、たのしかったのになぁ。もう、なんでこうなっちゃったの。せっかく綺麗にメイクしてもらった顔も、涙のせいでぐちゃぐちゃだろう。もしヒロトが帰ってきたとしてもこんな顔見せられない。
そう思っていたのに。
「……名前?」
帰って来てしまった。いや、ここはヒロトの家なのだから帰ってくるのは当たり前だが、幾らか早すぎないか。びっくりしたことで私の涙も止まり、しんとした空間へと変る私の部屋。
「ひ、ろと」
やっとの事で絞り出したその声は掠れて、聞くに堪えないようなひどい声。
「名前、なんでここに…?」
「だって、ヒロトに、会いたかった、から」
「風丸くんとデート中じゃあ、ないの?」
「一朗太、とは、つきあってないし」
「え、ちょっと待って、どういうこと」
「あ、だめっ」
ドアノブが回り、ヒロトが部屋へ入ってきそうだったので、慌てて私は阻止する。こんなひどい顔、見せられたものじゃない。
「どうして?」
ゆっくりと、私をあやすように優しく話しかけるヒロト。あぁ、私、ヒロトのこういうとこが好きなんだなぁ。
「だって、せっかくヒロトに可愛いって思ってもらいたくて頑張ったのに、今、涙で私の顔ひどいんだもん」
私の中で塞き止めていた何かが決壊した気がした。