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「お待たせ致しました、苺のクリームスフレとブルーベリーシャーベットです」
うわぁ、と喜ぶ目の前の女の子。その子の名前は忘れたが、ナツって呼んで、と前に言われた気がする。こないだの合コンであった子。正直、どうでもいい。そして今僕はそのナツに連れられてオシャレなカフェへ来ている。
「ぇ…ねぇ…ヒロトっ!」
「……ん、え?」
「もう、名前って誰よ」
「え…」
「いっつも私の事"名前"って呼ぶじゃない。…私を見てよ!」
気づかなかった。無意識に名前を呼んでいたなんて。もう、なんでだろ。いやになる。僕は名前を諦めることも満足にできないのか。はぁ、上手くいかない。じっと見つめていたデザートでさえ風丸くんと名前の色に見えてきてしまうのだから、重症みたいだ。
ナツとの会話が気まずくなって何気なくガラスの外を見る。すると、女の子が一人。おとなっぽくて、でも可愛くて、すごく僕の好み。道行く人がみんな振り返る。名前がちゃんとオシャレしたらこんな風になるんだろうな、と思った、その時。
バッチリ。目があった。心臓が活動をストライキ、持っていたスプーンまで落としてしまった。まるで映画のワンシーンのごとく、彼女のスカートが舞った。
「名前…?」
「ほら、またぁっ!」
ナツが絡んでくるけど、気にならない。うそ、いや本当に、本当に名前…?でもあっちも動揺しているからきっとそうなんだろう。名前、キレイだなぁ…
すると視界のはしから鮮やかな水色が走ってきた。乱れのないフォームと、その片手には器用に同じアイスがふたつ。そっか、名前、風丸くんとデート中だったんだ。だからあんなにオシャレして。あぁ、思わず見とれていた自分がバカみたい。
ちょうどナツと気まずくなったのをいいことに、僕はカフェを飛び出した。