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「すまない名前、今日は委員会があるから一緒に帰れない」
昼休み、大好きな卵のサンドウィッチを怜名と食べているときにそう言われた。別に怜名以外に友達がいないわけではないが、なんせ私の家は遠い。それに女子高生ともなると自分のグループ以外の子と話し、ましてや一緒に帰るなんて難儀な事なのである。…つまりは私は今、一人で帰路についているわけだ。
最近奮発して買った、お気に入りの白いヘッドホンを装着して大音量でロックを聴く。自分だけの世界に入れるこの時間は私の至福の一時である。唯一の難点は誰かに話しかけられても聞こえないことぐらいか。
トントン
「名前」
「ぎゃぁあぁぁ」
しまった、驚きのあまり可愛くない声をあげてしまった。私的には「きゃあ♪」とかがセオリーだったのだが。
「お、驚かせてすまない」
「ふっ、風介くん…!」
やばい、誰か私を殺してほしい…!よりによって風介くんだとは、神様は私の性格の悪さをよくわかっていらっしゃるらしい。ていうか、ガチでまずい。
「ご、ごめんね、大音量で聞いてたもんだから…」
可愛らしく小さい音でPerfumeでも聞いておけばよかった。マキシマムザホルモンを聞いてましたなんて口が滑っても言えない。
「いや、別にいいんだ。ところで一人か?」
「うん、怜名が委員会でねー」
「私もヒロトと晴矢が委員会だから一人なんだ。よかったら一緒に帰らないか?」
前言撤回。神様、あぁ、あなた様はやはり神と呼ばれるだけありますね、とても広い心をお持ちでいらっしゃる。隣のクラスにいる、神の真似事をしている私の友人をキツくしばいておきますのでこれからもどうぞ宜しくお願い致します。
気を取り直してカーディガンの袖を伸ばし、口許に持って行く。口を若干開きつつの、もう片方の手で裾を押さえる。即席だがまぁなかなかの出来だ。
「いいの?」
「あぁ」
…はぁ、またしても失敗か。わりとあっさりと返事をくれるなんてむしろ私は困るのだが。まったく私の常識をことごとくひっくり返してくれる人。今回ので確定した、風介くんには私の公式が当てはまらないので計算しても無駄だ。…まぁでも、それだからこそ燃えるんだけどね。
私は思いっきり笑って抱きついてやった。計算なんてしないで、本能のままに。驚く風介くんの顔を見て、してやったりとほくそ笑む私は自分でいうのもアレだが性格が悪いと思う。