いきなりだが、私には夢がある。幼い頃から微動だにせず私の中に根を張る大きな夢が。
…なんていうと政治家や医者、警察官なんていう職業が出てきそうなものだが、生憎私には社会貢献という概念が無いに等しい。それに職業の話ではないのだ。あえていうなら、そう。子供の頃からの憧れ。
"あたしね、おおきくなったらね、"
所詮、子供の思い描く夢。現実的に考えてありえる訳がない。そう何人もの人にバカにされるのはもう慣れた。それでも私の夢は変わることを知らない。
"宇宙人になりたいの!"
だれも知らない世界に住んでいて、だれにも知られずに地球人を観察している宇宙人。私たちには分からない言語で交信して、一般的にUFOと呼ばれる(でも宇宙人たちの中ではもっとカッコイイ名前がついているんだろうな)プカプカ浮いた円盤に乗って。あぁ、憧れる。結婚するなら絶対に宇宙人とかいい。
そんな大きすぎる夢を抱えた私の前に、最近新しい友達ができた。その子はどうも、元宇宙人らしい。見た目が私たちとなんら変わりないので信じがたい話ではあるが。彼の名前は基山ヒロトといい、サラサラのふわふわした赤い髪の毛に綺麗な碧色の目をした男の子。サイドの髪の毛がピョコンと跳ねているのがトレードマークだ。そんな自称元宇宙人の彼は、ある日突然に私の前へ現れたのだ。
「何してるの?」
「…宇宙人と通信中」
屋上に、いつものごとく宇宙人を探しに来て緩やかに流れる時間を楽しんでいたら急に話しかけられた。本当に突然の事だったためほぼ反射的に正直な回答をしてしまい、あとから焦った。まるでこれじゃあ私が電波みたいだ。しかし、私の予想を越えて赤い髪の毛の彼はこう答えたのだった。
「そっか、だから俺呼ばれたんだ」
初対面、というよりお互いに存在すら知らなかったような関係だったのに私たちはそれからあっと言う間に仲良くなった。話す内容は宇宙人ネタが多かったのだけれども、いろんな話をした。楽しかった。時間を忘れて話をしたせいで帰りが遅くなってお母さんによく怒られた、そんなある日。
「宇宙人ってさ、地球上の物を3分間だけ好きに操れるんだよ」
「なにそれ。じゃあ基山やってみてよ」
「俺は現役じゃないからなぁ…」
「ダメな宇宙人」
「違うよ、"元"宇宙人」
ハハハと笑う基山に、なんだかおかしくなって私も笑った。じゃあちゃんと練習してきてよ。そう、冗談でいったのに。
それから1週間が過ぎた今。基山は屋上にはおろか、学校にさえ来ていないようだ。まさか本当に修行でもしにいってしまったのだろうか。それとも、それとも。
「ハロー、ハロー、聞こえてますか?こちら地球人、応答願います」
基山の事で頭が破裂しそうになったので、気をまぎらわすために宇宙人との交信をはじめた。基山と出会う前からずっと毎日欠かさずにやっているこの行為に宇宙人が応えてくれたことは一度もない。最近は半ば無意識な行動になりつつあるそれは、今回も虚しく夕焼け空に消えていった。
「はぁ、」
今日も宇宙人に会えなかったし、基山にも会えなかった。そう思い、屋上のドアノブに手をかけた時。ガシャン、と控えめな金属音が背後に響いた。
「ピピピ、こちらグラン、地球人を迎えに来ました」
それは、私のよく知る声。期待半分、疑い半分で勢いよく振り返る。そこには。
「やぁ、ちゃんと練習して立派な宇宙人になってきたよ」
サラサラでふわふわだった髪の毛は無重力状態にあるかのように逆立ち、キラキラと妖しく光る宝石のようなものがはまったピッタリした服を着ている男の子。でも、彼は、目の前で私に微笑む彼は、私がずっと待っていた、
「き、やま」
「あぁ、立派な宇宙人に戻ったからさ、名前も変えたんだ。今の俺はグランだよ」
「…グラン?」
「さぁ、一人前の宇宙人になったからには見せてあげないとね」
目の前の基山が、もといグランがスッと動いて私の手を取る。どうやらあの日の約束を果たそうとしているようだった。
「3分間、一緒に宇宙人になってもらおうかな」
少し前までの私ならうっとりしてしまうぐらいに感動したはずだ。もちろん今だって3分間とはいえど宇宙人になれるなんてとても魅力的だ。
「…最高の提案」
でもね、
「でも私は、」
宇宙人よりも素敵な存在に気づいてしまったから。その3分間をもっと別のことに使いたい。例えば、 、とか。
私は驚いた顔をして固まっているグラン、もと…、あぁもうめんどくさい、基山の手をとって走り出した。
「宇宙人よりも、貴方を好きになっちゃったわ」
それはあなたが現れてから3分間の出来事。
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素敵企画:稲妻事変様に提出
歌詞とあまり関係なくなってしまいましたが(←)書いていて凄く楽しかったです(^^)/
空欄は好きな言葉を当てはめてみてください◎
参加させて頂きありがとうございました!
(能動的3分間)
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