ぐだぐだ | ナノ



大の字で人目も憚らず横たわるその影に、一瞬ぎょっとした。スカートの長さと巨大なリボンから瀬戸先輩だということは明らかだったのだが、ろくに会話も交わしたことのない彼女の寝顔を盗み見るのはなんだか気が引けて、極力顔を見ないようにしながら忍び寄ってみた。天馬天馬とやたら言う瀬戸先輩だし、特に目立った会話なんてしたこともなかった。

俺だってここで昼寝がしたいのだが、どうしたものだろうか。この屋上もそう広くはないし、先輩を避けるように離れたところで眠るのも、起きたときに気まずい。ひとまず、彼女が寝返りをうっても触れはしないであろう距離を置いてから、錆びかけた柵に背中を預けて座った。


普段は天馬天馬と煩い先輩も、黙れば可愛いものだ。あのスケバン根性と、粗暴な言葉遣いが無ければ綺麗な女性という肩書きで通るはずだ。それも水鳥のいいところぜよーとか誰かが言っていたが、俺にはさっぱり理解できない。
そのとき、彼女のまつげが音をたてた。はっとして、いつのまにか、結局寝顔を凝視していたことに気付く。勢いよく顔をそらしたとき、ぐにゃっとしただるそうな声がした。


「…剣城か。」
「…そうですよ。」
「昼寝か?」
「まあ…。」
「ここ気持ちいいよなー。」
「…そうですね。」


それきり彼女が何も言わなくなったので、そっと視線を戻してみると先程と同じまま、瞳は固く閉じられていた。
寝てるとこしか見てない。


「隣、いいですか。」
「おー、いーぜー。」


眠っているのかと思ったが、間延びした声がやはり瞳を隠したまま、呟かれた。それに、俺も背をコンクリートにつけて空を仰ぐ。背中がひんやりしたが、そのうち慣れた。
青空が、なんの障害物も含まないまま、そこに広がっている。


「いつからここにいるんですか。」
「んー、朝から。」
「授業は?今昼休みですよ。」
「明日から出るよ。」
「はあ。」
「そういうおまえはどうなんだよ?」
「何がですか?」
「授業だよ。」
「俺は一応出てますよ。」
「フィフスが丸くなったなあ。」
「…何を、」
「まあ、丸くなんのは悪いことじゃねーじゃん。午後も頑張れよ、京介。」


その言葉にため息だけ返して、昼下がりの遠い喧騒と、隣から聴こえる呼吸音に、俺も青空から逃げるように目を閉じた。




056 屋上
-->ほむらさま




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