ぐだぐだ | ナノ



「天馬くんたち遅いですね、購買混んでるのかな?」
「この時間だもんね。先に食べてようか」
「そうですね」


午前中最後の授業を終え、昼休みに入るチャイムが鳴り響く。教師の授業終了を知らせる声と共に、クラスメイトのほっとしたような空気が教室中に充満した。手足をぐっと伸ばすと、すっかりと固まってしまっていた間接がごきりと派手な音を立てる。
昼休みに入り、クラスメイト達が昼食のパンを買う為にそう厚くない財布を片手に走ったり、仲の良い友達同士で机をくっつけて弁当を食べ始める中、俺と影山くんは、弁当箱の包みをゆっくりと解いた。しっかり食べないと大きくなれないよ、と子供たちに念を押す、園のお弁当係であるお節介な抹茶色の髪がちらりと頭を掠めた。お箸で、弁当箱の中央を偉そうに陣取っているタコさんウインナーを軽く突く。


「狩屋くんのお弁当、なんだか可愛らしいですね。自分で作ってるんですか?」
「そんな訳無いじゃん。え、っとこれは……兄が」
「お兄さんが居るんですか!」


血は繋がっていないけど、と心の中で修正を入れる。きらきらと文字通り目を輝かせる影山くんのお弁当に視線を落とす。
普通の真っ白なご飯と唐揚げ、卵焼き、ひじきの和物などがきっちりと入ったごくごく普通の家庭的なお弁当だ。いただきます、と手を合わせた影山くんに続いて手を合わせる。購買で一番人気の焼そばパンをゲットしたらしきクラスメイトが教室に帰ってくると、ざわざわと再び周りが騒がしくなる。


「狩屋くんは卵焼きは甘いほうが好きですか?」


クラスメイトの手に握られている焼そばパンを眺めていたら、卵焼きを箸で摘んだ影山くんに質問をされた。卵焼きは甘いほうが好き?もっと別の話題があるだろうとちらりと思ったが、よくよく考えてみればこうして影山くんと二人だけで会話すること自体が初めての事だと気付く。きっと影山くんも、普段から全くといって良いほど会話をしない相手に何を聞いていいか分からないのだろう。そういう雰囲気は感じ取れないものの、俺の返答を待っていることだけは直ぐに理解できた。
正直言ってしまうと、甘く味付けをしている卵焼きは好きではない。目玉焼きやオムライスのような、甘くない卵焼きが好きだ。そう伝えれば良いだけのことなのに、影山くんが相手だと何故かとても緊張した。じんわりと手のひらに汗が滲んだ。


「甘いのは苦手なんだよね」
「本当ですか!僕もなんです」


それからは、お弁当の中身の話やら部活の話をしながら、ゆっくりと箸を進めた。いろいろと聞きだした結果によると、影山くんは料理のできる家庭的なタイプに弱いという事が分かった。男性は母親に似たタイプを好きになるとか聞いたことがあるけれど、息子に毎日弁当を作っている影山くんのお母さんはきっと優しい人なのだろう。俺はそんな事を考えそして、ちり、と痛んだ胸を誤魔化すかのように無理に笑みを作った。
ここでもし、影山くんが俺の両親のことを尋ねてきたとしたら、どう返事を返すべきなのだろうか。俺にそんな質問をしてくる大抵の人は、両親はいません、俺を置いて何処かに行きましたなど短く答えると、ばつが悪そうな顔をし、すいませんと頭を下げる。別に両親が居ないことに対して同情の意を求めている訳でもないのに。
しかし影山くんは、それ以上家族の話題について触れることは無かった。ああ、そういえば影山くんの家庭も複雑だと聞いたことがあったっけ。それからは、お互いに家庭の事は口にせず、再びサッカーの話などをぐだらぐだらと話しながら、少しづつ弁当を口に運んだ。


「なんだか僕、サッカーがしたくなってきちゃいました!お弁当も食べ終わった事だし、早速グラウンドへ行きましょう!」
「なんか今の影山くんの台詞、天馬くんみたいだね」
「あ、本当ですね」


ふ、と影山くんが笑みを零した。まだお弁当を食べ終わってからそう時間も経っていないというのに、俺たちはグラウンドへ急ぐために騒がしい教室を後にした。
窓の外にグラウンドが見えると、パンを買いに行ったはずの天馬くんと信助くんが既にグラウンドでボールを蹴っていた。先を越されましたね、と隣で苦笑する影山くんに相づちを打つと、周りの視線も気にせずグラウンドへと走りだしたのだった。




068 お弁当
-->野菜さま




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