![]() ‖上も下もなく 大見世「百華」でお職を張っていた日輪。 その振袖新造である月詠は、もちろん、将来のトップ候補。 月詠は日輪の補佐やサポートとして、共に座敷にあがることも増えた。 元々相手が誰であれ卒なく対応する、ということが不得意な月詠であったが、日輪の足をひっぱらないよう精一杯頑張っていた。 一度銀時が 「オマエは、日輪大好きだよな」 と言ったら 「あぁ。わっちは日輪を守れるくらい、大きくなりたい。 頑張る理由はそれだけじゃ。」 キッパリと言われた。 「そりゃ、殊勝なこった」 そんな月詠だから、店の者や客に対して、変に媚び諂う事はせず、基本的な態度は誰に対しても同じだった。 また、禿や新造仲間にも分け隔てなく接し、姉御肌な性分だったため頼りにされることが多かった。 もちろん銀時に対しても変わらず、会えば話をし、たまに日輪の部屋でお茶をしたりした。 年齢が上がるにつれ、月詠は前より忙しくなり 銀時は銀時で、役が代わり、忙しくなった。 自然と会うことも少なくなった そんなある日、銀時は休憩で庭先に座っていた。最近なんだかんだと忙しかったのでゆっくり休憩の時間があるのは久しぶりの事だった。 すると、そこへたまたま月詠が一服しにやってきた。 「あ」 「おう」 「久しぶり・・のように感じるな」 先に月詠が声をかけた。 「顔は見てたけど、実際に話すのは久しぶりじゃね?」 そういえば、ここ一週間ほど話していなかったか。 「ぬし、疲れておるな」 じっと銀時を凝視する月詠。 「俺も色々とあんのよ」 軽く嘆息しながら銀時は答えた。 「見世番に役が変わったからか?」 「おー人間関係も、外も内もゴタゴタしてて敵わねぇぜ。 ついでに、下役の面倒も見て指示出せと来たもんだ。 俺ァ、人の顔色窺って、波風立たないようにやるのァ苦手なんだよ」 「うむ。確かにそうじゃな。 というより、出来るけど、したくないんじゃろう?」 「好き嫌い言える立場じゃねぇのは分かってんだけどな・・・」 「まぁ、ぬしも出世したということじゃな」 ふふ・・・と含み笑いしながら言われたので 「何、それ貶してんの?」 少しムッとして言い返せば 「いや、労っておるんじゃ ぬしが、弱音吐くなんぞ、珍しいからのう。よっぽど参っているんじゃろう?」 予想外にも、優しい言葉がかけられた。 そして、そう言った後に銀時の頭を優しく撫でだした。 「なんか、いつもと立場逆だな」 慣れない事にどうしたらいいか分からずに困惑した。 「たまにはいいじゃろう。素直に甘えなんし。」 「あぁ、サンキュ」 それからやはり話をする回数は減ったが たまに会った時は、たわいもない話をした。 アイツめこんなことしやがってだとか あれがつらかっただとか、軽口を叩き お互い大変だなといって笑った。 →続く [*前] |[次*] [戻る] [TOP] |