銀月長編 | ナノ





‖ 幼心と兄心


それから、月詠はよく銀時を訪ねた。

「銀時、銀時」
と言いながら、ぱたぱたと後ろをついてきたり、駆けよってきたりもした。

お互いに、1人になった時・休みたい時に行く場所が似ていたのか、探さなくてもよく出くわした。

お菓子をもらったお裾分けだとか
今日こんなことがあっただとか、
誰それにいじめられて腹がたったからやり返したら怒られただとか

たわいもないことを少し話して、また仕事に戻る。それが2人の日課となっていった。


*********


月詠が「百華」に来てから1年くらい経ったある日のこと

「銀時、わっちゃ姉さまが変わることになった。」
いつもの様に話をしていると
そういえば・・・という風に月詠が言ってきた

「珍しいな。誰になるんだ?」
「日輪じゃ」
「へぇ〜よかったじゃねぇか。」
「あの人は、昔銀時が言ってた、気高い魂を持った目をしておる。
日輪につけるのは幸せじゃ」

嬉しそうに話す月詠を見ながら
銀時はボソリと呟く
「あぁ、そういや、この前日輪が亀吉と大喧嘩やらかしたって噂になってたな。
原因はコイツか。」

「ん?何か言ったか?」

「いや、なんでもねぇ」
本人が喜んでいるのだから、聞かせる必要はないだろうと判断し、告げるのはやめておいた。



この1年で、月詠はだいぶ見世に慣れ、表情も柔らかくなってきた。
それは日輪についてから、頓に顕著となっていった。

自然と会ったときに愚痴をいう事も減り、時には話らしい話もせず、ただ隣り合って座っているだけということもあった。


*******


ある日の午後、銀時は休憩で縁側に腰掛けていた。
いい天気だったので、自然とゴロリと仰向けに寝転がって空を見あげる体勢をとった。
しばらくすると、そこへ月詠がやって来た。
少女は、少しの間考えるように男を見ていたが、
すぐに、銀時を真似して同じように上を向いて横になった。

そして
「気持ち良いのう」
と言ったまま黙った。

数分後、銀時が傍らを見やると、月詠は目を閉じて軽く寝息をたてていた。

「おい、起きろ、風邪ひくぞ」

しかしよく寝ていて、うぅん・・と言うばかりで、起きる気配は微塵もない。

「仕様のないヤツ」
は〜と軽く息を吐きつつ言った後
月詠の背と膝下に手を置いて抱き上げ、部屋まで運んで行った。


「おーい、日輪〜開けてくれ〜」
部屋の襖の前で声をかける

「あら、銀さん、どうしたの?
・・・って月詠?」
流石の日輪も驚いたようだ。

「おたくのお姫さん、縁側で昼寝しちまったから運んできたぜ」
「あらあら、悪いわねぇ」
そう言いながら、日輪は手早く布団を延べる。

「ま、今更だな」
銀時は、そこに、月詠を寝かせる。

「ふふ・・本当に月詠は銀さんが好きよね」
「いやいや、コイツの日輪好きにゃ負けますよ」
少し照れたように、返す。

「うふふ・・・まぁ、これからもこの子の事、気にかけてやって頂戴」
「おう。
じゃ、俺行くわ」


それからというもの、日輪は
銀時が掃除で近くに来た時には、部屋に呼び
日輪、月詠、銀時でお茶を飲んだり話をしたりするようになった。



*************


三年、四年と経つうちに、月詠はだんだんと綺麗な娘に育っていった。
もともと顔立ちはよかったが、少女の顔が少しずつ女の顔へと成長していった。

大きく涼やかな目元はそのままに、色気のある顔立ちと体つきになっていった。

ともすれば冷たい印象を与えてしまう程に整った顔だが、笑ったり、表情をだすと、少し幼く見え愛嬌が出る。
頭もよく芸事も一通りできる。
将来の呼出花魁の候補としては、申し分なかった。

しかし、そんなことを本人はまったく気に掛けず、変わらず日輪に付き、銀時と話し、禿としての勤めをしていた。
日輪の花魁道中の折には、禿として日輪の前を歩いた。



そうして過ごすうちに、月詠は15歳の年に振袖新造となった。



→続く


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