銀月長編 | ナノ





‖望月の通い路@



翌朝、銀時と月詠は同時に起きた。
月詠は心なしかいつもより、ぼーっとしているようだった。
それはとても珍しいことだった。

心ここにあらず、という風に朝粥を食べていたが、半分ほど食べた所で

「のう、銀時」
何度も話しかけようとしては止めてを繰り返していた、月詠が口を開いた。
「昨日の話、いろいろとわっちなりに考えてみたんじゃ。
しかしな、どうやっても、いつも同じ答えにしかならぬ。」

「あぁ、なんとなく分かってたよ」

「わっちは、吉原に戻ろうと思う。
あそこには、日輪がいる。護りたい人と物があるんじゃ。」
頬の傷を無意識に触っている
「この顔では、もう太夫にはなれない。
あの見世にも置いてもらえぬかもしれぬ。
それでも・・・それでも、わっちは逃げるわけにはいかないんじゃ
自分に真っ直ぐ立ち続けていたいんじゃ。

すまぬ、銀時。
一緒に戻ってくれとは言わぬ。
ぬしだけでも、外で暮らすなら、そうしてほしい。

・・・わっちは、廓の中に戻る。」

心が揺れなかった訳ではないだろう。
しかし、はっきりと言い切った月詠は、昔から変わらない真っ直ぐな目を銀時に向けていた。


「あぁ、分かってた。オマエがそう言うだろうなと思ってたよ。
俺も一緒に戻るぜ。1人で残れなんて冗談じゃねェよ。

なぁ月詠、この外の世界を覚えておいてくれ。
オマエの年季が明けたら、日輪もつれて一緒に廓を出て暮らそう。」

銀時も、やはり真っ直ぐな、何度も月詠を元気づけてきた目を向けた。

「あぁ、そうじゃな。それも良いかもしれぬ。
自分の年季が明けた後の事など、考えた事がなかったからのう。」

そう言った月詠は、朝の光の中で綺麗に笑った。
その美しいまでの強さこそが、月詠を月詠たらしめるもの。
ずっと同じ、傷一つない綺麗な魂を持った女の顔だった。


牡丹・芍薬・百合の花

そんなありきたりの物じゃない

名は月、瞳は紫水晶、後ろ姿は潔く散りゆく紅葉

この先の道はさらに険しい。
しかし、月詠は振りかえることなく進んでいくだろう。
厳しい道中において、自分との約束が少しでもその強さの糧となってくれればいい。

月詠の笑顔を見ながら、銀時はそう思った。


→続く

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