‖春の夜の夢B 翌日にはなんとか動けるようになった月詠に、銀時が医者に行くかどうかを尋ねたところ 『専門医でも手の施しようがないのならいらない』との答えが返ってきた。 口惜しいが、その通りだった。 夜、眠る前に少し話をした。 「なぁ、月詠。お前は店に戻っても、今までのように太夫じゃいられないだろう。」 「そうじゃな。この傷で花魁道中するわけにはいかぬからのう。」 「あぁ・・・ だから、このまま2人で吉原戻らずに暮らすっていう選択肢もあるんだぜ。 滅多にねェ例だが、遊女が廓から出れちまったんだ。今のお前は自由の身だ。」 「確かに、言われてみればそうじゃな。 そこまで気が回っておらなんだ。」 「例えば、ここの婆さんの知り合いに頼んで仕事と住まいを捜すとかな。 仕事は選べないだろうが、俺はお前といられれば何だって構わねェよ。」 「珍しい口説き文句じゃな。 そうじゃのう、誰に気兼ねすることなくぬしと一緒に居られたら幸せじゃろうな・・・」 月詠はふっと笑みを浮かべながら呟いてから、そのまま眠ってしまった。 「まぁ、まだ傷の熱が引かねェから、余計な体力くうわな」 銀時は苦笑しながら、自分の腕の中に収まる女の真っすぐでサラサラとした髪を手で梳いた。 →続く [*前] |[次*] [戻る] [TOP] |