銀月長編 | ナノ





‖春の夜の夢A



「飯、食うか。冷める前に」

「そうじゃな。」

月詠は、銀時に手伝ってもらってゆっくりと体を起こし、壁に体重を預けた。
『食うの手伝うか?』
『自分で出来るから大丈夫じゃ』
というやりとりの後、2人で湯を飲みながら粥を食べ始めた。

月詠は、傷が痛むのだろう、顔を顰めながら殆ど噛まずにゆっくりと咀嚼していた。


「銀時」
「あぁ、そうだな。」

銀時はゆっくりと今までの経緯を話し始めた。
火事が起きて、店の者を皆避難させた事。
自分は1人で月詠を待っていた事。
表玄関が崩れたため、裏口に回った事。
そこで血の跡とクナイの簪を見つけた事。
追いかけて舟に乗った事。
降りた先で男たちを倒して縛っておいた事。
民家の灯りを頼りに月詠をここまで運んできた事。
お爺さんとお婆さんが良い人で、離れと薬を貸してくれた事。

そして、銀時は母屋で借りてきた鏡を月詠に手渡しながら続けた。
「その傷、だいぶ深い。
すぐに専門医に見せたらどうにかなったかもしれねェが
この辺には専門医はいないらしい・・・」
ハッキリと言えないでいる銀時の言葉を月詠が継いだ。

「これは・・・痕が残るじゃろうな。」

「あぁ・・・」

「化粧でも隠せぬじゃろうな」
淡々と言った。

「すまねぇ」

「何故ぬしが謝るんじゃ」

「守れなくて・・・ゴメン」

「銀時のせいではありんせん。
これはわっちの不覚が招いたこと。ぬしが気に病むことではない。
だから、そんな顔しないでくれなんし」

そう言って伸ばされた月詠の手を、銀時は怖々と取り、両手で包んだ。
そして腕を回して、ゆっくりと確かめるようにその体を抱きしめた。

「わっちはのう、銀時。
あの時、賊に囲まれて意識を失う直前、もうダメだと思いなんした。
命があっただけでも、儲けものじゃ。
ぬしが助けてくれたんじゃ、大事にせねばのう。嘆いていてはもったいない。」

「俺ァな、オマエがいなくなるかと思ったら、すげぇ怖かったんだよ。
本当にな、よかった。見つけられて・・・・
怪我はさせちまったけど、無事でよかった・・・」

銀時はそう言い終わると、そのままズルリと力の抜けた体を床に滑らせた。
頭まで横えた時には、もう寝息を立てていた。
昨夜は殆ど眠っていなかったため、安堵が眠気を促したのだろう。


「本当に・・・ありがとう、銀時。
無理をさせて、すまぬな」

月詠はそう呟くと、男の横に寄り添い再度眠りについた。



→続く

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