銀月長編 | ナノ





‖春の夜の夢@



耳に届く鳥の声と瞼の裏に感じる朝日の明るさに、銀時は自分が目を瞑っていたことを知った。
昨日はいつの間にか壁にもたれて座ったまま寝てしまったようだ。

ぼけっとしていたのは一瞬で、すぐにバッと体を起こし、月詠の傍に寄った。


「月詠」
声をかけると、僅かにまつ毛が震えた。

「おい、月詠、月詠」
続けて話しかけると

「ん・・・」
と声が漏れ、ゆっくりと目が開かれた

「ぎ・・・ん・・時」

「月詠、気が付いたか?」

「銀時、わっちは・・・」
ハッとして起き上ろうとしたが、激痛が走り体を持ち上げる事は叶わなかった。
受け止められた起こしかけの上半身は、銀時の手によって再度横たえられた。

「ここは・・?わっちはあれからいったいどうやって・・・」

「取りあえず、落ち着け。ちゃんと説明すっから
まず、ここ借りてる爺さん婆さんにオマエが気ィ付いたって、言ってくるな。
ちょっと大人しく寝ててくれ。」

気遣わしげな声で、月詠の頭に手を置きながらそう言った銀時は、ふうっと一息ついてから、表へ出て行った。

それを目で追ってから、月詠は辺りを見回した。
自分の寝ている蒲団の敷かれている畳間の中央には囲炉裏があり、板の間から続く土間には、最近は使われていない様子の簡素な竃が設えてあった。
何の変哲もないごく普通の人家の中は、久しぶりに見たはずなのに、どこか懐かしい気がした。
こんな家で暮らしていたのはもう何年前になるだろうか・・・と、ぼんやりと天井を見つめながら考えていると
湯と朝餉を持った銀時とお婆さんが入って来た。

「気が付いたんだね、よかったよ。
随分と深い傷だったから・・・可哀想にねぇ、美人さんなのに。
あんた達、気兼ねせずここに居てもらって構わないから、しっかり治しておくれ。
必要ならお医者様への行き方も伝えるよ」

「あぁ、お言葉に甘えさせてもらうぜ。悪ィな、婆さん。」

「相済まぬ。見知らぬお方なのに・・・」

「何を言ってるんだい、困っている人を助けるなんて、当然のことじゃないか。
ゆっくり休んでおくれ」
優しい笑顔で言ってから、お婆さんは母屋に戻って行った。



→続く

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