‖雲隠れ@ 前を行く猪牙舟は、すいすいと川を進んでいく。 どこまで行くのか。 このまま品川辺りまで下って行かれたら面倒だと思案したが、そのだいぶ手前で速度を落とし、川縁に付けた。 降りる時も一悶着していたので、銀時は賊と同じくらいに、その少し川上に降りることが出来た。 「悪ィ、また今度払うからつけといてくれ」 前方の団体をしっかりと目で追いながら、小声で長谷川に囁く。 「あぁ、大丈夫だ。 月詠ちゃん、無事に助けてきてくれよな。ここで待ってた方がいいかい?」 「いや、場所移動するかもしれねェし、それに医者に行くかもしれねェから、その必要はねェ。 ありがとな、長谷川さん」 「そっか、分かった。じゃ、俺は帰るよ」 そうして、船頭は静かに、また川を上っていった。 その櫂を漕ぐ水音が少しずつ小さくなっていくのを後ろに聞きながら、銀時は剣呑な光を湛えた眼を先程と変わらず前に向けたまま、1つ深呼吸をした。 腰を低くして、音を立てないように賊に近付いていく。 彼らはこれからどうするかで揉めているようで、銀時の気配に気が付く様子はなかった。 その横に月詠は、幾重にもくるまれたまま地面に横たえられている。 獲物に静かに近づいていった銀時は、後ろ側に立っている2人の首筋に手早く手刀を入れた。 音がしないよう、男達の倒れざまを受け止めてからゆっくりと草むらに転がす。 残りの3人に 「おい、お前ら」 声をかけて振り向きざまに一番月詠に近い男の鳩尾にこぶしを入れ、残りの2人が呆気にとられている隙にその顔を蹴り上げて あっという間に5人の男を伸した。 そして 「月詠!!」 叫びながら声をかけた。 しかし女はまだ意識を失ったままで、顔には痛々しい傷があった。 その傷が熱を持つのか、苦しそうな顔をしていた。 取りあえず、どこか手当てができる場所を探さなくては・・・・ と思い、辺りを見回す。 だいぶ先の山間のほうに民家の灯りのようなものが見えた。 それを認めると、銀時はゴロツキ達を手早く縛りあげてから、月詠を抱きかかえ、灯りの方へ歩いて行った。 →続く [*前] |[次*] [戻る] [TOP] |