銀月長編 | ナノ





‖ さざなみA



「あれ、銀さん。こんなところまで出て来るなんて珍しいね。店の人の誘導?」

この緊急時にそぐわない、割にのんびりした声で
顔馴染みの舟守、船頭の長谷川が声をかけてきた。

「長谷川さん、詳しく説明してる暇はねェんだが
あの前走ってる舟を追ってくれねェか?」

「え?あぁ、いいけど・・」

銀時は最後まで聞かずに舟に乗り込む
長谷川は、話を続ける

「前に乗ってる人たち、なんか揉めててさ〜
見るからに怪しいし、態度でかいし、みんな乗せたがらなくてさ。
だいぶ時間かかってから、2隻の舟と交渉まとまったみたいだよ。
なんでも、連れ合いが倒れたとかで、早く出せって喚いてたよ」

「あの横たえてる人、月詠だ」

「えぇぇぇぇぇ?!」
悠長な長谷川も流石に驚いた

「たぶんな。見たわけじゃねぇが」

「え、火事に乗じた拐かし?だから銀さん追いかけてきたのか。
しかし、大見世のトップ花魁攫うなんて、大それたことする人達だね。」

「あぁ、なんかある前に、取り返さねぇと」

「そういうことなら、俺も頑張って追うよ
そんなに遠くまで行かないはずだし」

「あぁ。悪ィが、頼むぜ」

(無事でいてくれ)
小さな祈り声が、水面にとけた。


→続く

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