![]() ‖さざなみ@ 一方銀時は 店の者をほぼ避難させ終わり、残り1人となった月詠が出てくるのを表玄関で待っていた。 しかし、なかなか出てこないので、火の中を入って行こうかどうしようか迷っていた。 そうこうするうちに、表口をパチパチと爆ぜていた火が大きくなり『ゴォッ』という音と共に入口を飲み込んだかと思うと、玄関の鴨居が崩れた。 (おいおい、アイツ大丈夫か?中はもっと火の手が強ェよな・・・出てくるとしたら裏口しかねェな) そう考えを巡らすと、裏手へ走った。 建物の裏側は、まだそれほど火が回っていなかったので、これなら出て来られるだろうと、銀時は一安心した。 ふと、裏口のそばの地面に血の跡があるのが目についた。 まだ新しいようで、微量ではあったが赤い鮮血が痛々しかった。 (火事の上、傷をおうなんざ、不憫な人がいたもんだな。まさに泣きっ面に蜂・・・) 無意識に、その血を流した主の辿った道筋を目で追う。 ポツポツと残る血痕は数メートル先で綺麗に消えていた。 そして、何の気なしにその更に先に目をやって、全身の毛が逆立つ感覚を覚えた。 そこには、見慣れたクナイ形の簪が一本落ちていた。 裏出入口のすぐそば 飛び散っている血飛沫 落ちたクナイの簪 考えなくても分かる。 裏口から出た月詠が襲われて怪我をさせられ、連れ去られたのだと。 月詠の性格からして、素直に連れていかれる訳はないので、気を失っているか余程の重症だろう。 幸いにも血の量はさほど多くないから、後者の線は薄い。 血の跡がプツリと消えているから、布か何かに包まれて運ばれたのだと検討がつく。 一般人の知る吉原の出入口は一つしかない。 遊女が逃げたとあっては大騒ぎになるが、今は火事で見張りも緩くなっている。 顔を上手く隠し、数人で抱えて怪我人だと言えば出られてしまうだろう。 銀時は瞬時にそれを悟ると、大門の方へ走り出した。 途中で店の者たちを先導し、避難させている楼主を追い越していた。 「おい、番頭」 声をかけられて初めて気が付き、叫ぶように返答した。 「楼主のオヤジ、太夫が攫われた。俺はその賊を追いかける。 店の奴らの避難頼んだぜ。」 簡単に要点だけ伝えた。 「あぁ、分かった。頼んだぞ。」 楼主の台詞を背で聞きながら、番頭は更に前を駆けていった。 逃げ惑う人で騒然としている大門を何とか潜り抜け、その先五十間の一本道の人混みを掻き分けながら、出口の見返り柳まで行ってやっと視界が開けた。 そこまでの間も目を配っていたが、それらしい一団は見当たらなかった。 必死に周りを見渡しながら辺りを探す。 すると少し先にある船着場から出た舟に、何か大きく長い荷物が横たえられているのが見えた。 「おい、待ちやがれ!!!」 そう言ったところで止まるはずもないのは理解しているのだが、怒鳴らずにはいられなかった。 →続く [*前] |[次*] [戻る] [TOP] |