花の香を君に   




10月10日の夜

志村家で、盛大に銀時の誕生祝いが催された。
新八と神楽が立案して
お妙に相談の上、志村家に知人・友人などを集めてホームパーティー形式で祝おうということになった。

事前に言えば、恥ずかしがって来ないかもしれないので
こっそりと準備して(料理は新八担当)
夜御飯をちょっとご馳走するという体にして
6時ごろ神楽に銀時を連れてきてもらった。

志村家の中には
歌舞伎町の住人たち・柳生家・オカマバーの面々・真選組など、大勢がスタンバイして待っていた。

クラッカーが鳴らされ、用意された巨大ケーキに大量に刺さっている蝋燭が吹き消されると
そのあとは
主役は誰だよという程の飲めや歌えやの大騒ぎ・・もとい誕生日会という名目のいつもの大宴会が繰り広げられた。




日付が変わる頃には、皆酔いつぶれて、バタバタと倒れていき
志村家の床の間には、死屍累々と酔っ払いの山ができていた。




そして、ゆるゆると時間はたち
時計が12時の鐘を打った。
すると、それを合図のように、1人の男がスクッと起きあがった。
すでに昨日ではあるが、宴の主役、銀時だ。

おもむろに、まだ底に少しだけ残っている日本酒の瓶とお猪口を掴むと、縁側に出た。

暫く、銀時が1人でちびりちびりと酒を舐めていると
玄関の方から中庭に、人が走ってくる音がした。

パタパタという音が大きくなって、姿を見せたのは月詠だった。

銀時は意外な人物の登場に驚いたが、
月詠にとっても銀時が1人縁側で酒を飲んでるのは意外だったようで
一瞬言葉に詰まった。

「銀時・・・ぬし、何をしておるんじゃ?」

「何って、月を肴に酒飲んでるぜ」
いつも通り飄々と返す。

「月はまだ出ておらぬぞ。
誰も起きていないと思っておったが・・・」

「あぁ、全員つぶれてんな」

「ぬしが、つぶれていないのが予想外じゃな。
遅くなってすまぬ。」

「いや、気にすんなよ。
どうせ、また、夕方あたりに厄介な事あったんだろ?」

「あぁ、思ったより時間がかかってしまいんした。」

「それでも、律義に来るあたりが、流石ツッキー?」

「だって、ぬしの誕生日パーティーじゃろう?」

「それ、最後まで覚えていたヤツいたかどうかは怪しいけどな」
後方のどんちゃん騒ぎのあとを2人で見る。

「まぁ、皆、ぬしに一言かけたかった気持ちは一緒のはずじゃ」

「どーだか」


話が途切れたところで、月詠は銀時の隣に腰を下ろした。


「そうじゃ。これはわっちからぬしに」
月詠は持って来ていた紙袋から瓶を取り出した。

小ぶりで華奢な形の酒瓶のようだった。

「これァ・・酒か?」

「中国の果実酒の一種でな。桂花陳酒と言いんす」

「けいかちんしゅ?」
聞きなれない、名称を訊き返す。

「うむ。桂花、つまり金木犀じゃな。
白ワインに金木犀をつけて熟成させた酒じゃ。
時期的にはピッタリかと思ってのう。
甘い酒らしいから、ぬしは好きかと思ってな。」

「へぇ、洒落てんじゃねぇか」

「たまには、こういうのも良かろう」
そう言って、紙袋からグラスと氷を取り出す。

「準備のいいこって」

「氷はすぐ近くのコンビニで買ってきたから、まだ溶けておらぬはずじゃ」
月詠は大きめの氷を入れたロックグラスを差し出した。
銀時はそれを無言で受け取る。

そして手のあいた月詠は、桂花陳酒の瓶を開け、トクトクと銀時が持っているグラスに注いだ。

銀時は、2回程グラスを手の内で回して、カランカランと音をたてさせた後
口元に運んだ。

「銀時。
誕生日、おめでとう」

「あぁ、サンキュ」

ゴクリと一口含む。
甘くもアルコール度の高い液体が喉を流れた。
そして、そのあとフワリと金木犀の香が鼻を抜けた。

「うめぇ」

「それはよかった。」
暗くてよく見えないが、柔らかく笑った気配がした。
そして、続けて
「では、すまぬが、わっちはこれで・・・」
申し訳なさそうな声で言った。

「やっぱり、無理して抜けてきたのか。」

「あぁ、一段落はしたが、そう長く抜けられぬのでな・・・」

「わざわざ、ありがとな
吉原のお月さんを肴に酒飲めて良かったぜ」

月詠は返答の代わりに、ふっと笑みを返して、帰って行った。




東の夜空を見遣ると、いつの間にか
下弦から新月へ向かう細い月が山際から昇っていた。

もう一杯、花の香を纏いながら月見酒





HAPPY BIRTHDAY 坂田銀時





[終わり]


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