学校内にある自動販売機の前で何を買おうか迷っていたら、後ろからバタバタと走ってくる音がした。
ポケットから小銭を取り出したところで予想通りの声音がした。
「人に掃除押し付けてサボるなんて、いい度胸アルナ」
あぁ、面倒くさいヤツがきたと思いながらお金を投入した。
「意外と早かったなぁ」
「オマエが居そうな所くらい検討がつくアル!!
ふざけるな
サドヤロー
次は1人でやれ」
などと罵声が続くのを聞き流しながら、清涼飲料水のボタンを押した。
程なくガコンという音と共に350mlの缶が出てきた。
「終わったならいいじゃねぇか、わーわー騒ぐなよ」
「これで何回目だと思ってるアルカ。今度という今度は許さないアル。」
尚もぎゃーぎゃー言ってるのを無視して、ジュースを取り出す為に屈んだ。
缶を掴み上げたとき、ふと先程までのマシンガン罵声が止んでることに気付き、神楽の方に顔を向けた。
彼女の視線は缶を持っている自分の右手に注がれていた。
コイツもジュース飲みたいのか?
と思っていたら、予想外の台詞が続いた。
「オマエ、意外と手、大きいアルナ。」
「はぁ?!」
「女の子みたいな顔してるケド、体の作りは男アルナ。」
「当たりめーだろ」
そんな会話をしながら、チャイナは何のてらいもなく俺の空いている左手を取り、掌を開かせると、自分の右手をピタリと合わせてきた。
「おぉ、私の手と関節1つ分も違うネ。」
何故か少し楽しげな口調で言ってきた。
何がしたいんだ、コイツは。
「あ?あぁ、そうだな」
そして、チャイナはまた何でもない事のように掌を離すと
「日直日誌は教室に置いてきたから、オマエが書いて出しておくヨロシ。」
べーっと舌を出して、くるりと踵を返してパタパタと走り去って行った。
まさに嵐が去ったようだった。
一体なんだったんだ。
考えたって分からないけど、なんだか、さっきまで掌を合わせていた左手がじわりじわりと熱を持ってきた気がする。
「あぁ、もう、何だってんでィ」
右手に持っていたジュースを左手に持ち替える。
冷えた缶の冷たさが心地よい。
よく分からないモヤモヤを抱えながら
「しょーがねーなァ」
沖田は教室に向かった。
恋せよ17歳
夏は短し
[終わり]