外に出て、しばらく走ったところで公衆電話を見つけた。
焦って受話器を取り落としそうになりながら電話をかける。
番号は何度も何度もかけているから、もう空で言える。
「はい、こちら真選組・・・」
「ザキ、ゴリかマヨに変わるアル!!」
「え?チャイナさん?」
「ゴチャゴチャ説明してる暇ないネ。
早く!!」
「え、あ、はい。」
遠くのほうで
『あっ副長〜』と呼びかけている声が聞こえる。
悠長な声だしてんじゃねーヨ!!早くって言ってんだろうがァァ!!
と怒鳴りたい気持ちを必死に抑えて待つ。
すると思いの外すぐに、やれやれという風のマヨ声が話しかけてきた。
「チャイナ娘、総悟ならいねェぞ・・・」
「違うネ、トッシー
アイツ、やられそうネ。増援をよこすヨロシ。大至急アル!!!」
「オイ、分かるように説明しろ」
「もう、時間が惜しいアル!
埠頭でなんかヤバイやつらのアジトに乗り込んだアル
私は傘の弾が切れたから、連絡入れに抜けてきたアル。
だから、アイツ今1人アル。
早くしないとっ・・・」
焦りで捲し立てるように、頭に浮かんだキーワードを次々に口にする。
「分かった。
そこで待機しててくれ。増援隊が駆けつけたら案内して突入しろ。
巡回中のヤツらをまずそっちに向かわせる。」
そう要点だけ口早に告げられるとガチャンと電話が切れた。
それから待っていた時間は10分にも満たなかっただろう。
しかし、私には何時間にも感じられた。
せわしなく電話ボックスの周りを行ったり来たりしたり、腕組みした手を指でトントンとリズムを取ったり、キョロキョロと周りを見回したり
そうしてやっと10名程の隊服の団体が、こちらに駆けてくるのが見えたときは、ほっとして嬉しくなった。
「チャイナさん、総悟は?」
先頭切って走って来た局長さんは、歩を止めずに聞いてきた。
同様に走りながら、案内しつつ返す。
「こっちアル」
お願い、間に合って・・・
1時間程前に2人で入っていった倉庫入口に、今度は一団で入って行く。
ガラリと、倉庫の扉を勢いよく開け放つ。
目の前には、倒れ伏した人の山が広がり、夥しい血と鉄の臭いが充満していた。
その室内で、奥の窓の下に一人だけ立っている男がいた。
皆でそちらに駆け寄る。
刀を支えにして辛うじて立っている隊服の男は顔をあげ、近づいてくる面子を確認すると安堵した表情を浮かべてから、ガクンと膝を崩した。
『総悟!!』『隊長!!』という声が自分の後ろから響く中、真っすぐにその男のもとに駆け寄る。
そして、下を向いた顔を覗き込むようにしゃがむと、息の切れた台詞が聞こえた。
「思ったより早かったじゃねェか。
しっかし、これで新規の敵さん御一行が来てたら流石にヤバかったかねィ・・・
近藤さん、後始末よろしくお願いしまさァ。」
「おう。任せておけ。1人でこれだけの成果をあげるとは、流石総悟だ。
よくやってくれた。」
「オマエ、大丈夫アルカ?怪我とか・・・」
「あぁ、殆ど返り血でィ
膝ついたら笑うって言っといて、このザマたァねィ
ちょいとばかし、調子のったか
笑いたきゃ笑いなァ」
「オマエ、ホントにどうしようもない馬鹿アルナ
笑わないアル
ありがとう
庇って助けてくれて」
「そんなんじゃねぇやィ
自惚れんのも大概にしなせェ」
そう言いながらも、口元に笑みを浮かべている男に肩をかしながら、倉庫を後にした。
【終わり】