背を預けし4




外に出て、しばらく走ったところで公衆電話を見つけた。
焦って受話器を取り落としそうになりながら電話をかける。
番号は何度も何度もかけているから、もう空で言える。

「はい、こちら真選組・・・」

「ザキ、ゴリかマヨに変わるアル!!」

「え?チャイナさん?」

「ゴチャゴチャ説明してる暇ないネ。
早く!!」

「え、あ、はい。」

遠くのほうで
『あっ副長〜』と呼びかけている声が聞こえる。
悠長な声だしてんじゃねーヨ!!早くって言ってんだろうがァァ!!
と怒鳴りたい気持ちを必死に抑えて待つ。
すると思いの外すぐに、やれやれという風のマヨ声が話しかけてきた。

「チャイナ娘、総悟ならいねェぞ・・・」

「違うネ、トッシー
アイツ、やられそうネ。増援をよこすヨロシ。大至急アル!!!」

「オイ、分かるように説明しろ」

「もう、時間が惜しいアル!
埠頭でなんかヤバイやつらのアジトに乗り込んだアル
私は傘の弾が切れたから、連絡入れに抜けてきたアル。
だから、アイツ今1人アル。
早くしないとっ・・・」

焦りで捲し立てるように、頭に浮かんだキーワードを次々に口にする。

「分かった。
そこで待機しててくれ。増援隊が駆けつけたら案内して突入しろ。
巡回中のヤツらをまずそっちに向かわせる。」

そう要点だけ口早に告げられるとガチャンと電話が切れた。



それから待っていた時間は10分にも満たなかっただろう。
しかし、私には何時間にも感じられた。

せわしなく電話ボックスの周りを行ったり来たりしたり、腕組みした手を指でトントンとリズムを取ったり、キョロキョロと周りを見回したり

そうしてやっと10名程の隊服の団体が、こちらに駆けてくるのが見えたときは、ほっとして嬉しくなった。


「チャイナさん、総悟は?」
先頭切って走って来た局長さんは、歩を止めずに聞いてきた。

同様に走りながら、案内しつつ返す。

「こっちアル」

お願い、間に合って・・・

1時間程前に2人で入っていった倉庫入口に、今度は一団で入って行く。


ガラリと、倉庫の扉を勢いよく開け放つ。

目の前には、倒れ伏した人の山が広がり、夥しい血と鉄の臭いが充満していた。

その室内で、奥の窓の下に一人だけ立っている男がいた。

皆でそちらに駆け寄る。
刀を支えにして辛うじて立っている隊服の男は顔をあげ、近づいてくる面子を確認すると安堵した表情を浮かべてから、ガクンと膝を崩した。

『総悟!!』『隊長!!』という声が自分の後ろから響く中、真っすぐにその男のもとに駆け寄る。
そして、下を向いた顔を覗き込むようにしゃがむと、息の切れた台詞が聞こえた。

「思ったより早かったじゃねェか。
しっかし、これで新規の敵さん御一行が来てたら流石にヤバかったかねィ・・・
近藤さん、後始末よろしくお願いしまさァ。」

「おう。任せておけ。1人でこれだけの成果をあげるとは、流石総悟だ。
よくやってくれた。」

「オマエ、大丈夫アルカ?怪我とか・・・」

「あぁ、殆ど返り血でィ
膝ついたら笑うって言っといて、このザマたァねィ
ちょいとばかし、調子のったか
笑いたきゃ笑いなァ」

「オマエ、ホントにどうしようもない馬鹿アルナ
笑わないアル
ありがとう
庇って助けてくれて」

「そんなんじゃねぇやィ
自惚れんのも大概にしなせェ」

そう言いながらも、口元に笑みを浮かべている男に肩をかしながら、倉庫を後にした。



【終わり】

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