「え?何か言ったアルカ?」
「いや、何でもねェ」
沖田はそう言ってから、今度は居住まいを正すように神楽の方を向いた。
「神楽」
「え、あ、はい」
滅多に呼ばれない名前を真面目に呼ばれてビックリした神楽も思わず居住まいを正す。
「こっち向いちゃくれねェか?」
「え、こうアルカ?」
墓石の前に横並びで立っていた2人が、今度はまっすぐ向き合った。
そして、沖田はおももろに腰に差していた刀を鞘ごと外した。
それから神楽の前に跪くように膝を折り、刀を自分と神楽の前に置いた。
「姉上。
俺は昔から、姉上に迷惑と心配ばかりかけていました。
俺には姉上しかいないと思っていたので、邪魔なヤツは片っ端から消したりしてました。
友達が出来ないって心配かけたりしましたね。ごめんなさい。
でも、こんな俺も、侍としてあるべき目標に出会うことができ
その人たちの背中を見て歩いて来たことで、どうにか一人前になったと言えるように成長できやした。
姉上、今日はご報告がありやす。俺にも大事にしたいと思える人が出来たんです。
初めは『なんだコイツ』って思ったもんですが、一緒にいればいるほど、俺にはコイツが必要だって思えるんです。
何回か来ていたみたいなので、姉上もご存じだと思いますが
俺の掛け替えのない人です。
そして、姉上、俺のこの刀に懸けて1つ誓います。
俺・・いや、私、沖田総悟は
彼女、神楽をこの先一生大切にしていきます。
どうか、天から俺達を見守っていて下さい。」
そう言い終わると、沖田は顔をあげて神楽の顔を見た。
最初は何を言おうとしているのか分からなかった神楽も、途中から言わんとしていることを理解し
最後に彼と目が合った時には、口元を手で覆い、目から涙を零していた。
そんな神楽の様子を見て、沖田は柔らかな笑みを浮かべて刀を持ちながら立ちあがった。
そして、彼女の頬を伝う涙を拭ってやった。
「泣くなよ」
「だって、こんなこと・・・いきなり言うなヨ。
想定外すぎるアル」
「そうか?いつかは言うつもりだったがねィ」
「そういうことは、分かるように小出しにしてほしいアル。」
「そりゃ、悪かったな」
「嬉しすぎて涙止まらないなんて初めてアル」
そう言いながら、神楽は目の前に立つ男に体を預ける。
沖田は彼女を受け止め、ぎゅっと抱きしめる。
「大事にする。
で、返事は?」
「お願いされてやるアル」
「素直じゃねェなァ」
「うるさいアル。」
寄り添い合いながら、朗らかに言い合う男女の声が墓に響いている。
そんな2人の周りを柔らかい風がなでていった。
風はその先の柳の木に絡み、笑うように枝葉を揺らした。
[終わり]