拝啓、姉上様1



5月26日は沖田ミツバの誕生日であった。
この10年間、弟である沖田総悟は毎年欠かすことなく、その日に墓参りに行っている。
そのために彼が有給や半休を申請することを咎める者は、誰一人としていなかった。

生前のミツバを知る人も、彼女に会いに行ってはいたようであったが
休みを取っている一番隊隊長沖田総悟の仕事を肩代わりしていたため、日をずらして行くことが多く、同日に墓参りをする彼に会う人はいなかった。





本日 5/26

今年も沖田総悟は朝から出掛けて行った。

向かう道の途中にある花屋で、供花を購入していく。
いつも利用するので店主ともすっかり顔馴染になっていた。
「まいどありがとうございます」「どうも」と一連のやりとりの後、花を携えて道を進む。

周りに柳の植えられている墓地の一角にその人は眠っていた。

まず初めに、墓石周りの草を取り、石や段を掃き清める。
暇があるときに来るようにしているため、さほど荒れていないのだが、節目の日なので綺麗にしていく。
程なくして掃除が終わったので、今度は水を汲んで来ようと、水場まで歩いて行った。
手桶に水を満たして戻って来るところで、墓石の前に人が立っているのが沖田の目に入った。

良く知った人物がそこにいることにやや面食らいながらも、長く伸びた赤い髪を二つに括った女に近づいていく。

喧嘩相手だったのにいつの間にか恋人になっていた女。
この10年程の間に、様々な記憶を共有してきた女。
ここ数年はエイリアンハンターとして宇宙を飛び回っている女。

付き合いは長いが、彼女がここに来たのは初めてだった。

『よく場所知ってたな。』とぼんやり思いながら声をかけた。

「珍しいヤツに会ったもんだなァ。誰かに聞いたのかィ?」

気配で沖田が近づいていたのに気付いていた神楽は、顔をそのまま前に向けた状態で答える。

「だいぶ前から知ってたアル。実は毎年きてるアルヨ。
地球にいなかったりしたから、帰ってきたときに前倒ししたり、後にしたりしてたけど、毎年来てるアル。
今年はちょうど帰ってきていたから、当日に来られたアル。」

その言葉に沖田は驚いた顔をした。

「そりゃ、知らなんだ」
「わざわざ言うことでもないダロ。オマエだって毎年わざわざ言わないアル。」

「それも、そうだがねィ・・・」

「それに、私が来たくて来てただけだしナ。
オマエが1人で行きたいなら、私も1人で行ったらいいかって思ってたアル。
『あなたの弟はバカだけど、元気にしてますヨ〜』って伝えたいだけだからナ。」

「オメー・・・そんな事、毎年報告に来てたのかィ?」

「だって、オマエのお姉さんダロ?きっと知りたいアルヨ。
兄弟が元気にしてるかどうか、何してるか、聞けたらきっと嬉しいアル。
ゴリやマヨも来てると思うけど、私しか知らない話もあると思うから、毎年来ているアル。」

そう言って神楽は穏やかな笑みを浮かべた。
随分と大人びた表情だった。

姉を亡くした弟と、兄と断絶してしまっている妹
その2人がミツバの墓の前で佇んでいた。

「ありがとう、な。」

「お礼言われることじゃないアル。
オマエのお姉さんだからナ。私は会えなかったけど、せめてお話をしに来たいアル。
だから、これは私の勝手ネ」

今度はニシシシと歯を見せて明るく笑いながら口にされた神楽の言葉に
沖田は、珍しく表情をくしゃりと崩して笑った。

「まったく、これだからオメーは・・・」

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