fight the blues


頭の中がぐるぐるする

彼に出会ってから数年。
この1年は恋人だった。
昨日までだけど。

別れの原因はよくあること。

些細なことで言い争っているうちに、段々と大喧嘩になって
「別れよう」
と言ってしまった。

べつに引き止めてくれるだろうと思ってた訳じゃないし、
認めるはずがないと高を括ってたわけでもない。

ただ、そのときの感情を素直に口にしてしまっただけ。

そうしたらアイツが
「あぁ、そうだな」
って素っ気なく返してきただけ。



昨日は帰ってから、ただひたすらイライラしてた。
(なんで謝らないの)
(私悪くない)
(なんなのアイツ)
とか思ってるうちに、何に苛ついてるのかよく分からなくなって寝てしまった。

一晩寝て、少し冷静になって、じわじわと後悔の念が押し寄せてきてる。

喧嘩したことではなく、別れたことに。

「はぁぁぁ〜」
まだお昼前にも拘わらず、今日何十回目になるか分からない溜め息をつく。

嘆息するたび、チラリと新八がこちらを伺うように心配そうな目を向けてくる。
もちろん無視するけど。

でも、今回はいい加減シビレを切らした銀ちゃんが声をかけてきた。

「おーい、もういい加減にしなさいよー。
溜め息ばっかりつきやがって、お前や新八はともかく、銀さんの幸せまで逃げちまったらどうしてくれんだぁ。」

「心配いらないネ。
銀ちゃんに初めから幸せなんてついてないから減らないアル。」

「ちょっと、なんで人を勝手に不幸にしてんのぉぉぉぉぉぉー」

「もう、銀さん、やめて下さいよ。
神楽ちゃんが心配なら、心配ってハッキリ言ってあげればいいでしょう。」

「え、新八、おまえ何言っちゃってんの?
銀さん心配なんかしてないからね。
あれだよ、あれ
なんか、小娘が溜息ばっかりついてて、あぁ青春だな〜とか思っただけだから。
若いね、リア充爆ぜろとか全く思ってないし?

まぁ、うちの子にはできれば悲しい思いさせたくないし。
早く素直になって謝っちまえよ、楽になるぜ。
とか言ってやりたいけど
どう言ったらいいか、タイミングを見かねてたー
とか、マジでないからね。」

「いや、銀さん、今言っちゃってますからね、それ。
全部口に出してますから。
神楽ちゃんバッチリ聞いちゃってますから。」

「え・・・?
か、かーぐらちゅわ〜ん?今の聞いてた?」

「うん、ごっさ聞いてたネ。」

「あーそうかー聞いてたかーじゃあしょうがねェなー
い、いや、計算通りだよ?
こんな感じで、プランBで行こうと思ってたからね。
成り行きじゃないからね、まったくね。」

「銀さん、見苦しいからもうやめて下さい。
要するに、早く仲直りしなさいって言ってあげたかったんでしょ。」

銀時はなんとも言えない顔をした後、ふーっと息を吐き、真面目な顔を神楽に向けて話を続けた。

「まーあれだ、神楽。
喧嘩なんてのはな、どっちが悪いとかじゃなくて、どっちも悪ぃんだよ。
どっちの方がってのは、お互い言い分あるかもしんねぇけどな
実際のとこ、両者ともに悪かったとこがあるもんなんだよ。
だからな、仲直りしたかったら、まず先に謝っちまえ。
意地とかプライドとかは、この際かなぐり捨ててな。
そんで、相手にも謝ってもらえ。
こじれて、時間たつと取り返しがつかなくなるぞ。

お前だって、このままでいいなんて思っちゃいねーんだろ?
朝から辛気臭い顔で溜息ばっかつきやがって、
気になってイチゴ牛乳飲みすぎちゃう俺や、胃に穴空きそうな目してるぱっつぁんの気にもなってみろってんだ。」

「いや、あんたは常日頃から、イチゴ牛乳飲みすぎてるでしょう。

まぁ、神楽ちゃん、銀さんの言うとおり、早めに仲直りしてね。
僕たちは、できれば神楽ちゃんの泣きそうな顔見たくないからさ。」

あぁ、二人とも何も言わなくても、私の状況分かってたんだな。
しかもすごく心配してくれて、ぶっきらぼうだけど優しい心遣いを言葉にしてくれた。
それを理解すると、不覚にも鼻がツンとして、目にじわりと涙が浮かぶ。

「二人とも、ありがとアル。」
必死にそれだけ言えば、優しいお母さんのような笑顔が二つ返ってきた。


「さて、昼ごはんにしますか。
銀さん、神楽ちゃん、手伝って」
新八が絶妙なタイミングで、話を変えた。
それから、いつものように、わいわいとうるさくしながらお昼を食べた。


食べ終わってから、私は出かける準備をして
「ちょっと出かけてくるアル。」
と言って玄関に向かった。

「おー気をつけてなー」
「夕飯までに帰るんだよー」
という声を背中に聞きながら、玄関の引き戸を閉める。

アイツに会おう。
それで、謝ろう。そしてちゃんと話をして謝ってもらおう。
そう思ったら自然と屯所に足が向いて、
その歩みは少しずつ早くなって、しまいには走っていた。



→続く

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