優しさに包まれたなら



月詠と銀時は隠れ家的な旅館に来ていた。

三寒四温だった気温もいつの間にか、夏へ向かって変わり行く季節を感じる陽気になってきた。

思わず昼寝をしたくなるような穏やかな午後
2人は縁側に出て庭を見るように並んで座りながら日向ぼっこをしている最中だった。


長年連れ添った夫婦は空気のようだとよく言われる。
(それは分かる気がする。)
と月詠は思う。

居るかどうか分からないという意味ではない。
居るのが当たり前でその感覚が心地よいのだ。
一緒にいることで何か特別なことが起こるのではない。
けれど、一緒にいるのが普通であると、そう思い合っているのが言葉にしなくても分かっている状態なのだ。

数年前までの2人にはとても考えられなかった状況だ。
そう思うと少しこそばゆいが、安堵感と幸福感を感じる。

恋人同士だと言っても、
10代の頃のような勢いや情動はないし
付き合いだしたばかりのころのはしゃぐ気持ちや高揚感もない。

しかし、この上もない満足と充足がある。
そんな状態なのだ。


そんなことを考えるともなく思い巡らせていると

銀時がゴロンと前触れもなく、
心の赴くままという風に、月詠の膝に頭を乗せた。

「ちょ、何をしておるんじゃ」
「ま、いーじゃねーか」
「何がいいのか、サッパリ分からぬわ」
「銀さんお昼寝タイムだから」

何を言っても無駄であると分かっているし、
いつものこと、と諦めて月詠は銀色の髪を梳くように撫でる。

髪を撫でられているとみょうに落ち着いて眠くなる男と
ふわふわの髪を撫でてるいと気持ちよくて眠くなる女

緩やかな時間が今日の午後も流れていく。
そんな日常。

「あー幸せだなぁ」
と心の内を男が漏らせば

「そうじゃな」
と女が答えた。



ふわりと、どこからかクチナシの香りが漂ってくる。

「あぁ、じきに梅雨がきやがるな…」

夢うつつの男は呟いたあと、本格的に眠ったようだった。

うららかな昼下がり。
まだ、もうしばらく縁側の二つの影は動かない。






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