幸せの花を




所用の帰りに2人で並んで歩いていると、ふっと隣にいる女の歩行スピードが落ちた。
何事かとそちらを振り向くと、彼女は道端の花壇に咲いている花を不思議そうな顔をして見ていた。

「オイ」
声をかけると
月詠は、そこで初めて自分が立ち止まっていることに気が付いたようで、詫びを口にした。

「あぁ、すまぬ。
見た事がない花が植わっていたものでな。」

そう言いながらも、また物珍しげな顔でそちらをしげしげと見つめ続けている。

「その見たことがねぇ花ってのァ、コイツのことか?」

プチンと1本手折る。

「あ、コラ。勝手に摘んでは怒られるじゃろう。」

「一本くれェ構やしねェだろ。
大目に見てもらおうぜ。」

ほいっと、その白く小ぶりで可愛らしい花をつけた茎を渡す。
女は反射的にそれを受け取った。

そして、顔に近づけてまじまじと見つめた。

「綺麗じゃな。
そして不思議な形の花をつける。
なんとも可憐じゃ。」

「まぁ、外来種っぽいから、見たことねェのも無理ねェか。
そいつぁスズランってんだ。
あの婆さんと同じだな。

外国では幸せになる花ってことで結婚式に使われたりするらしいぜ。

でも、ユリ科で毒があるからな。
そのせいで欧米の昔話じゃ、若い乙女はスズラン摘むと不吉が訪れるって話もあるくれェだ。
まぁ、子供に毒を喚起させて、無闇に触らないよう戒めを込めた寓話の類だな。
っつー訳だから、花とか茎触ったら手ェ洗えよ。」

「そうか。これがスズラン・・・
鐘型が愛らしい見目とは裏腹に毒持ちとは、世の条理のようじゃな。
鈴蘭太夫の墓に供えるには、ちとそぐわぬかのう。」

「まぁ、幸せを連想させる花には違いねェから、別にいいとは思うがな。
でも折角だから、オメーが持って帰ったらどうだ?
気に入ったんだろ?」

自分がもらったくせに、その発想はなかったようで
月詠は「え?」と驚いた表情を浮かべた。
そして、数秒考えるように目を泳がせてから「うむ」と納得したように呟いてから、言葉を続けた。

「そうじゃな。
日輪への土産にするかのう。」
そう珍しく明るい声で言った。


月詠は、一本のスズランの花を大事そうに手で持ち、帰り道を辿った。


******


「あら、月詠おかえり。」

「戻りんした。」

「おや、その花、どうしたんだい?」

「あぁ。先程、帰りに見つけてな。
銀時が一本折って持たせてくれたんじゃ。
これがスズランなんじゃな。
実物は初めて見んした。」

「あらあら、銀さんったら、そんな粋なことしたのかい?」

「うむ。確かに、あの男が花をくれるなぞ珍しいかのう。
わっちゃよほど物珍しげな顔でこの花を見ていたんじゃな。」

ふわりと笑いながら、白い釣鐘を眺める月詠を
日輪もまた、優しく笑いながら見つめた。


「ねぇ、月詠。スズランの花言葉を知っているかい?」

「え?いや、知らぬな。」

「『幸せの再来』らしいよ。」

「ふむ。この花が必要なのは、むしろ銀時の方かのう。
幸せの再来・・・か・・・」

「そうよ。
まぁ、銀さんが知っていたとは思わないけどね。」
苦笑まじりに日輪の言葉が続いた。

そして背の低い一輪挿しを探してきて、花を活ける月詠を柔らかい表情で見守った。


(ねぇ、月詠、知らないだろう?

海外ではね、男性が意中の相手にダンスを申し込むときに、スズランの花を渡す風習があるんだよ。
そして、それを受けた女性は、そのスズランの花を胸元に刺して、踊るんだよ。

でも、この2人は、スズランを送ることの意味なんて知りやしないんだろうねぇ

今度、銀さんが来たらコッソリ教えてあげなきゃね。
責任とっておくれよってね。)


ふっふっふ・・・と意味ありげに微笑む日輪の後ろで
何も知らない月詠が、生け終えたスズランを満足そうに眺めていた。



【終わり】
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