心と魔物



○恋人設定 銀さん視点○



『カプリ』と
その滑らかな肌を露出させた肩に歯を立てた

その辺の男よりよほど鍛えているとは言え、やはり女の体
軽く噛み付くだけで傷が付いてしまうほど柔らかい。

「痛っ・・」

月詠が小さく声をあげる。
だが抵抗らしい抵抗はしてこないので、そのまま歯形で付けたデコボコを舌でなぞる。

それほど強く噛んでないから血は出ていないはずだ。
薄っすら血が滲んでいる程度だろう。
しかしながら、舌先で舐めれば舐めるほど血の味がしてくる気がするのは、やはり俺が昔と変わらず血を求めてやまない獣のままだからだろうか。


なぁ月詠、逃げろよ。
俺ァ、まだ血に飢えた獣をこの身に飼い続けているんだ。
抑えきれずにオマエを食っちまう前に、俺から離れてくれ。


「いつまでそうしておるんじゃ。
血の味でも堪能しておったのか?」

「だったら、どーすんだ?」

「他者の業に染まっているわっちの血であっても、ぬしが啜ってくれるというのなら、それも悪くないかのう。
少しは報われるでありんしょう」

ひどく妖艶な笑みを向けながら言ってきた。
何て事を言いやがんだ、コイツは。

「俺ァ吸血鬼じゃねェよ」

「そんなことは知っておる
そんな嵐が丘のような頭のヴァンパイアがいたら興醒めじゃ」

くすくすと笑う月詠の声を、先程と変わらずに唇を女の肩に触れさせた体勢で聞いていた。

「大丈夫じゃ、銀時。
わっちゃ、血を流したくらいでくたばったりしんせん。
多少のモンスターならこの手で調伏できるからのう。」

なおも笑みを含んだ声音で、謡うように女は続けた。
期せずして発せられたその言葉に、思わずビクリと体が強張った。

なんでだろうな。
なんでオマエは、こうも俺の思っている事の遥かに上を行くんだ。なんで、そんな事を軽々と口にすんだ。
そんなんだから、やはり放したくないとその細い手を掴んでしまう。

俺の中にドス黒い狂気があって、それが人に触れないように
近づいて来る者があれば遠ざけ、また自分から遠ざかって避けてきたのに。
もう長い事そうやって生きて来たし、これからもそうやって生きていくつもりなんだ。
なぁ、頼む、やめてくれよ。
オマエを巻き込みたくはないんだ。

でも、もう今じゃあ、俺から手放すことなんざ出来そうもないから
だからオマエから離れてほしいと。どうかこの手を放して、そして振り返らずに進んでほしい、と思っているのに
なんで、オマエは受け入れようとしてくれるんだ。

そんなんだから、もう少しでいいから一緒に居たいと思っちまう
コイツといたらもう大丈夫なんじゃねェかと錯覚しちまう。

そんなの、気休めだと分かっている。
自分の業はそんな簡単に消えやしないってことはよく分かっている。
でも、希ってやまない。

願わくば、内に秘めた怪物の牙が月詠に向く事がないよう
もう金輪際顔を出すことがないように、と。

祈るように目を瞑りながら
もう一度、女の肩に歯を立てた。



【終わり】
[*前] | [次#]

[戻る]
[TOP]








人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -