あふれた夜7




月詠はひのやに着くと日輪にわけを話し、客間に蒲団を敷いて、銀時を寝かせた。
そうしてから、洗面器を持って来て枕の横に置いた。

まだ目を覚ます気配がないので、湯ざましを作ろうと台所まで行った。
やかんを火にかけ、沸騰した湯を別の容器に取って冷ました。

その間に、日輪には「銀時は自分が看るから、気にせず寝てくれ」と声をかけた。
「そうかい?手伝うよ。」
と言う姉に「大した事はないだろうから、大丈夫だ」と伝える。

湯が人肌まで冷めたので、湯差しに移し、盆に湯のみと一緒に乗せて部屋まで持って行った。


月詠が襖を開けると、男は蒲団から出て、窓壁に背をもたれかけさせながら座っていた。

「気が付いたか。湯ざましを持ってきた故、飲みなんし」

お盆を机に置いてから、湯ざましを入れた湯のみをもって窓際へと向かいながら言葉をかける。

「何故そんなに飲んだんじゃ。自分の許容量くらい分かっておろう」

「好きで飲んだんじゃねェよ。」

「付き合わされて飲んだわけでもなかろう」

「あまりにも月が綺麗だったから。」

「は?」

「どっかの殺風景なツラした女の事考えてたら、呑むしかなかったんだよ」

「わっちのせいだとでも?」

「そうだな。オメーのせいだが、オメーは悪くねェよ。」

「いよいよ、訳が分からぬ」

「惚れた女忘れるために、酒の力借りただけだ」

「な・・・に、を・・・
ぬし、酔っているんじゃろう。
戯言も大概にしなんし。」

「冗談でもふざけてもいねェよ。
こんなこと酒の勢いがなきゃ言えやしねェよ。

俺ァ、ただ・・・気ィ抜いたら思いだしちまうツラを
目の前にしたら、伸ばしそうになる手を
今も全神経となけなしの理性で抑えてるだけだ。」

「銀時、いい加減に・・・」

「分かってんだよ。
あんな関係から始めたのが間違いだったことくれェ
でもな、俺ァ、オメーがほしかっただけだ。
それを上手く言葉にできなかっただけだ。
オメーがそれを・・・色々考えて、俺の我儘聞いてくれてたってことだって分かってんだよ。
だから、忘れる努力してたってのに
なんだって、俺はこんな所来て、こんなこと言ってんだ。」

「ぬしは、何を言っておるんじゃ・・・
それではまるで・・・」

そう呟きながら、近寄ろうとすると

「来るな。」

鋭い声が飛んだ。
「それ以上近づいたら、俺ァ抑えられねェ。手が届いたら抱き寄せちまう。
オマエに触れたら、止まらなくなる。
だから、それ以上来ないでくれ。
オメーに嫌がられるのは、結構傷つくかんな。」

ハンと自嘲気味な声で下を向きながら銀時は言った。

顔は月明かりで影になり見えないが、きっと泣き出しそうな子供のような顔をしているのだろう。
それが分かってしまう自分を持て余し
そんな男がどうしようもなく愛おしくて
気持ちの持って行き場所を考える余裕もなく、先に触れたのは月詠だった。

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