あふれた夜2





普段、万事屋やひのや、そのへんの道で会っても、以前と何にも変わらない対応を互いにする。
ポーカーフェイスに死んだ魚のような目
揶揄いにクナイをなげ、くだらない口喧嘩をする

偶に
数週間に一度だったり、数日と開かずにだったり、定まった期間はないが
ふと合った視線が意味ありげに絡むと、どちらともなく手を引いて、夜の街に姿を消す。
眠らずに帰る時もあれば、朝に日が昇る前に宿を引き払うこともある。割合としては半々くらいだ。



キュッとシャワーの蛇口を締めて、顔の滴を払う。
脱衣所で身支度を整えて部屋に戻ってみても、男はまだ寝ている。

「ほれ、起きなんし」
強めに揺すると、意識は覚醒したようだ。
しかし「うー」とか「あー」だとか言ったまま目を開ける気配がない。

「じきに日の出じゃ。早く帰らぬと神楽が起きるぞ」
尚も肩を揺すりながら言うと、やっとのっそりと起き上がり

「あ〜・・そーだなぁ」
欠伸混じりにいった。

「相変わらず早いですね、太夫」

「ぬしが遅いだけじゃ」

もそもそと服を着出した背に
「シャワーは?」
と問えば

「いらねェ」
と返って来た。



そうして手早く身支度を整え終わると、余計な事は言わないまま建物から出た。
新しい一日が始まろうとしている静謐な空気の中、一筋二筋と射し始めた朝日を浴びながら
ホテルの前まで出てきたところで言葉を発する。

「じゃ、気をつけて帰れよ」
「ぬしもな。」

短くそれだけ言って別れる。いつものように。



どこかで終わらせなければ
と思う。
では、それはいつなのだろう。

だって、もう知ってしまっているから
この背に回る腕の強さを、この体に触れる肌の熱さを

知らないままでいられたら、こんなに思い悩むこともなかったものを。
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