あふれた夜1


○恋人未満○



この背に回る腕の強さを、この体に触れる肌の熱さを
知らなければ、悩まなくて良い想いがあった。


*********



ふるりと肌寒さに身を震わせたことで、眠りから覚めた。

体をベットから起こす。
ガラス窓から外を見やると、白々と朝焼けの始まった東の空が明るんでいる。
横を見れば、まだ夢から覚める様子のない銀髪の男

掛け布団の中で体育座りをするように膝を立てて、腕で抱え込む。
やはりまだ衣服を着ないで寝るには寒い。
先日は2人揃って風邪をひいてしまい、隠すのに四苦八苦したものだ。
とやかく詮索されぬようにと、必死に治した。


こんな無意味な関係をいつまでもズルズルと続けていても仕方がない、と分かっているのに
どこでボタンをかけ間違えたのか・・・

無意識のうちに力を込めていたらしく、腕にくいこんだ爪が痕を付けているのに気がつき嘆息する。

ベットを出て、散らばっている自分の服を集め、浴室へとシャワーを浴びに向かう。



どんな経緯でこんなことになったのか。
始まりなんてもう思い出せない。
ただ、お互い
掴まれた腕と射かけられた目を拒まなかっただけ。
その後、腕は絡まり、目は閉じられただけ。

それから何度肌を重ねたか分からない。

だから、もう知っている
あの手は、自分の何処を触れば身を捩らせるのかを
どのくらい圧力をかければ、声があがるのかを。

同時に自分も知っている
どんな仕草をすれば、あの深緋の目の色が変わるのかを
どう動けば、苦しげな表情をするのかを

肌を這う指と体の輪郭をなぞる舌の感覚を思い出して、思わず体が震えた。


そして、思考が袋小路に迷い込んでいることに気が付き、先程から浴び続けているシャワーの温度をあげた。

仮初の情事、一夜の夢
お互いにそう割り切っているのだから、考えたところで栓のないこと。
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