カモメと海とバイクと1


○ホワイトデー風 恋人設定○



低空を滑るように飛ぶカモメの下を、波頭がひときわ大きくうねった
と思った次の瞬間に、大きな飛沫があがる。

ザッバーン

という効果音がよく似合う
冬の海

暦の上では春になったと言え
まだまだ明け方には氷が張り、朝歩けば霜柱がザクザクと音を立てる寒さ

沖から磯の香りを伴って吹き付ける風は、手足の先ばかりでは飽き足らず、体の芯まで凍えさせる。

そんな日に何故海にいるのかと言えば
今、横にいる背の高い女に
しゃんと背筋を伸ばし、凛と前を向いて風を正面で受けている月詠に言われたからである。





「なぁ、どっか行きてェ所とかねェの?」

「は?ぬし、どうしたんじゃ?」

「うるせェ〜俺だってたまにゃ出かけようとか思うんだよ」

「明日は槍か。吉原の天井を閉じねばなるまいな。」

「あんだと?」

喧嘩腰の俺をスルーして女は続けた

「そうじゃなぁ・・・・行きたい所と問われても特には・・・
あぁ、そうじゃ。
海、かのう。」

「はぁ?!海ィィィ?冬なのにか?」

「冬の荒々しい海は見たことがないからのう。
まぁ、無理にとは言わぬ。忘れてくれなんし。
因みに、今は一応春じゃ。」

月詠は、ふっと諦めたような表情を浮かべた。

またこんな顔しやがって、という思いが首をもたげた。
連れて行ってやろうじゃねェか。

「いや、いいぜ。
このクソ寒みィのに海に行くなんざ、酔狂で俺たちにゃお似合いかもしれねェぜ?」

おどけた調子で返せば

「ぬしと一緒にするでない。」

と予想以上につれない言葉が返って来た。
ちょっと嬉しそうな顔してるくせに、素直じゃねェな。まぁ、もう慣れっこだけど。





そんな訳で、今2人で海辺に佇んでいる。
何をするでもない。
ただ、白波を眺め、魚が跳ねるのを目で追ったり
平べったく大きさの丁度いい石を拾って水きりしたり
少しずつ満ちてきた海水から逃げるように徐々に後ろに退がっていく。

1時間もそうしていただろうか。
流石に三時を過ぎると、風が強くなり気温が下がり出す。

「そろそろ帰ェるか?
お前のその格好じゃ寒ィだろ。
冷えで腰痛いとかなったら、俺が夜に困・・・」

最後まで言い終わる前にグサグサとクナイが刺さった。

「痛ってーな。何しやがる。」

「どこぞの天パ侍が、おかしなことを言うからじゃ。」

北風よりも冷たい目線がこれまた痛い。
ったく、冗談の通じねェヤツだよ、まったく。
いや、夜に困るのは事実だけどな。



まぁ、それはそれとして、あまり潮風に吹かれていても風邪をひくだけなので
そろそろ帰り時である。

月詠も同様に思っているようで「じゃあ、帰るか」という事になった。


→続く
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