惑い月7




しかし・・・
逃げてもいいだなんて、初めて言われた。
あぁ、そうか。逃げてもいいのか。それを肯定してくれる人もいるのか。
その言葉に、少し体が楽になった気がした。

「あぁ、大事ない。わっちゃ、そんなに簡単にこの命差し出す訳にはいかぬから。
大丈夫じゃ、わっちはここにおる。
ぬしがここにいるように。」

似た者同士、傷の舐め合いをしているだけなのかもしれない

こやつもまたひっぱられているのだろうか。
わっちに、付き合ううちに、ひきこまれてしまったのだろうか

ならば、今度はわっちがひきとめよう。

誰かが居てくれるということ
その大きさを気付かせてくれたこの男を。




ふと、一瞬、風に運ばれてきた山茶花の香りが鼻をくすぐった。
秋から冬にかけての寒さが厳しくなるこの時期に、蕾を膨らませて開かせる花。

今だけでいい、その強さを、わっちら2人に分けてくれ。

そう願いながら、
そっと、そのふわふわの頭を手繰り寄せた。



【終わり】
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