しかし・・・
逃げてもいいだなんて、初めて言われた。
あぁ、そうか。逃げてもいいのか。それを肯定してくれる人もいるのか。
その言葉に、少し体が楽になった気がした。
「あぁ、大事ない。わっちゃ、そんなに簡単にこの命差し出す訳にはいかぬから。
大丈夫じゃ、わっちはここにおる。
ぬしがここにいるように。」
似た者同士、傷の舐め合いをしているだけなのかもしれない
こやつもまたひっぱられているのだろうか。
わっちに、付き合ううちに、ひきこまれてしまったのだろうか
ならば、今度はわっちがひきとめよう。
誰かが居てくれるということ
その大きさを気付かせてくれたこの男を。
ふと、一瞬、風に運ばれてきた山茶花の香りが鼻をくすぐった。
秋から冬にかけての寒さが厳しくなるこの時期に、蕾を膨らませて開かせる花。
今だけでいい、その強さを、わっちら2人に分けてくれ。
そう願いながら、
そっと、そのふわふわの頭を手繰り寄せた。
【終わり】