惑い月6




連行と後始末は他の百華に任せて、その場を離れた。

風に当たりたくて、また屋根の上に登った。
そして再度空を仰いだ。先刻と同じ、隈のない弓月がこちらを見下ろしていた。

「そんな高い所でよそ見してたら、狙撃されんぞ
あんな事件があったあとだから、余計なァ」

やはり先程と同様のやる気の感じられない声が下からかけられた。
しかし、今度は、男が屋根まで上がって来た。

「やはり、見ておったのか」

「あぁ。お疲れさん」

空から視線を外さないでいると、腕を引っ張られた。

「妙な事考えんじゃねェぞ」

「考えてなどおらぬ。
ただ、少し居た堪れなくて風に当りたかっただけじゃ。」

「あんな事言われて平気なはずねェもんな」

「それも聞いていたのか」

そこで初めて男の顔を見た。
珍しく真剣な、そしてやや焦ったような表情をしていた。

「心配してくれたのか?
ぬしは相変わらず、変なところで優しいのう」

笑いを含みながら言ったが、期せずして悲しげな響きが残ってしまった。
すると、銀時はぐっと手に力を込めてきた。引っ張られて抱き寄せられる形になった。

「何をしておるんじゃ。そんな迷い猫のような顔をされては、こちらも素気無くできぬではないか」

「なぁ、頼む、行かないでくれ。
俺ァ、もう嫌なんだ。目の前で大事なヤツがいなくなるのは。
なぁ、頼む、コイツ連れて行かないでくれ。」

きっと周りには、またこの世ならざるものが纏わりついているのだろう。
この男は、必死にそれからわっちを遠ざけようとしてくれているのか。

ゆっくり体を放しながら言う。

「大丈夫じゃ。わっちは逃げずに正面から向き合わなくてはいけないんじゃ。」

「オマエ、本当に何にも、分かっちゃいねェよ。
いいんだよ、逃げたって。背負い切れない時も、重すぎる時もあるだろうよ。
そん時は、逃げりゃいいじゃねェか。
どんなに汚くたって、みじめだって、生きて行くことが、せめてもの手向けだろう
そうすることしか、俺たちにはできねェんだよ。
だから、なぁ、頼むから、そんな消えそうな儚さを出さないでくれ。後を追わないでくれ」

その手を肩に置いて強く掴んだまま
最後は、懇願するように、弱々しく呟かれた。

この男は、己にはどこまでも無頓着な癖に、人をとことん大切にする。
自分にとっては、なんでもない、いつも通りの振る舞いと言葉だったが、彼には何かを思い出させたのかもしれない。


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