惑い月1



あぁ、今日は満月か
夜の見回りの最中、明るいなと思って空を仰ぐと、どこにも欠けのない月が天中に鎮座していた。

ふうっと息を吐くと淡い白靄に変わる。

そういえば、あれからもう1年くらいたつのか
とぼんやり思う。
師匠と最後に一緒に見たのもこの時分の満月だった。

明日にでも、墓に花を手向けに行こうか。
そう思ってから、また仕事に頭を切り替えた。



街を駆けていると一瞬、花がぶわっと強烈に香った。
季節が秋から冬に変わるこの時期に、花が強い香りを醸すのは、冬に枯れゆく草花が今際の際に何とか自分の子孫を残そうという本能なのだろうか
そう考えてから、花の香になんと風情のない解釈をするのだと
そんなことを考えてしまう自分は寂しい人間なのだろうなと思った。



時々、今まで自分が手にかけてきた者たちの残像に責め立てられることがある。
亡霊が見えるとか、霊感があるという訳ではない。
自分の心が弱くなっている時、迷いがある時
普段は自分の意志と決意で押しとどめているものが、心のどこかにひっかかっていた物が、
自分を責め、詰るように葛藤が生まれる。

自分の生き方が間違っていたとは思わない、否定する気もない。
しかし、違う道が選べたのかもしれない、という考えが思い出したようにちらりと胸をかすめることもある。






翌日、師の墓に手を合わせながら心の中で問うた

「師匠、ぬしもわっちを責めるのかのう?
手にかけてきた者たちと同様に、お前なんか・・・・と言うのかのう?
言われたところで、わっちに反論の余地も申し開きもないが・・・」



吉原の遊女を使って悪行を働いた輩を処断したとき、大概の利用された妓は男に惚れこんでいて、結果として月詠を恨む

「この、人でなし」
「なんで、こんなことができるのよ」
「お前なんか・・・絶対にろくな死に方しないわよ」
そんな言葉をあびせかけられることはもう日常となっている。

生霊にも死霊にも沢山恨まれている事だろう。

だからこそ、自分は真っ直ぐ前を見て進まなければならない。
死んで行った者、自分が奪った物に恥じないよう、それを真っ直ぐ受け止めて生きて行かなければならない。

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