鳴く声も聞こえぬ虫の想ひだに 3



川縁には、予想通りではあったが、多くの人が蛍を見に来ていた。

そこを素通りして、更に奥へ続く小径に歩を運ぶ。

「銀時?見ぬのか?」
「穴場があんだよ。
ここ道が狭いから気をつけろよ。
下駄慣れてねーだろ。」

2人とも暗く狭い路を足元に気を配りながら黙々と進んだ。


数分歩くと、少し開けた場所に出た。
そして、目の前の空間には無数の蛍が誘うように光っていた。

横の女は「ほぅ」と息を飲み
「これは、見事な…
…綺麗じゃな」
と静かに感嘆の声を洩らした。

そして、光にいざなわれるように、蛍の飛び交う空間に一歩二歩と入っていった。

「ぬし、よくこんな場所知っておったな。」
「ま、伊達に万事屋やってねーって事だな。」

月詠は、ふふと笑い
「お陰で、この景色を2人占めじゃな」
といつもより幾分嬉しそうな声音で言った。


ぼうっと浮かび上がるような黄色がかった緑の光が、周りを包む。

沢山の蛍の群れの中にいるので、表情まで僅かに分かるくらいに仄明るい。
月詠の驚きながらも喜んでいる顔も見える。

蛍を手に乗せようとしているのか、ただ光を追いかけているだけなのか
手を灯りの中に泳がす彼女の姿は、さながら蛍を背に舞を舞っているようだった。

その妖艶な動きと幽かな明るさが何とも言えない色香を醸し出す。

いつもと違う髪型にいつもと違う衣服。

考えるより先に体が動き、我に返った時には後ろから抱きしめていた。



「どうしたんじゃ?」
特に慌てた風でもなく訊いてきた。

「別に、何でもねぇよ」
「そうか」
そう言ってから、月詠は体の重心を後ろの方へ移し、体重を少し銀時の胸から腰あたりにかけてきた。

(何、狙ってやってんの?)
と一瞬考えたが、コイツがそんな計算高い女じゃないことはよく分かっているから
(きっと何も考えてないんだろうな)
と思ってもう一度月詠を見ようと視線を落とすと、
形良く盛り上がった胸が目下にあり
思わずゴクリと生唾を飲み込んだ。


「やっぱり浴衣っていいよな」
「そうか?動きづらくてかなわぬわ」
「情緒がねぇな。
浴衣同士でカラコロってのァ、デートの定番だろうが」
「まぁ、そうじゃな。
浴衣は夕方からしか着られないし、風情はあるかのう。」

「夕暮れ、薄手の浴衣、露わなうなじ、
いつもと違うってのは、無条件でそそられるもんだぜ。

だからな、月詠
あんまり無防備にしてたら、狼に喰われちまうぜ。」

そう言い終わる前に、銀時は月詠の両方の身八つ口に手を入れた。

そしてダイレクトに分かる大きな胸を両の手に収めて、肌襦袢の上から揉みしだいた。

「あ、こら、ちょっと。
やめなんし。」
「やめねぇよ。
こんな滅多にない機会無駄にできるか」
「何を言ってるんじゃ」

「身八つ口から手を入れて胸揉むのァ男のロマンなんだよ。
普段のお前の着物はあいてねぇだろ。
前襟を無理やり開くのとは訳が違うんだよ。」
「意味が分からぬわ」

「じゃあ、こうしたら分かるか?」
そう言うと、胸を揉む手を早く強くし、乳首をカリカリと引っ掻くように、刺激を与えた。

その瞬間、ひゃぁと嬌声が響き、月詠は体を預けるように、後ろにいる銀時にしなだれかかった。
それでも、まだ残る理性で抵抗して
「ま、待ちなんし
こんなところで…」

なんて、目を潤ませて言うから
いじめたくなっちまって
わざと、耳元で低く呟いてやる。
「大丈夫、最後までしねぇよ。
ギリギリで止めてやるから。
続きは帰ってからな」





音を発することなく、光で愛を囁く蛍の灯火の中
零される男と女の言の葉は
戯言か溢れた愛しさか



[終わり]


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