鳴く声も聞こえぬ虫の想ひだに 2



2日後の夜7時。
待ち合わせ場所で待つ月詠の浴衣姿を遠目に認めて
思わずガッツポーズをしたのを本人には気付かれなかったようだ。
よかった。

近づいて「よお」といつも通りの調子で声をかけた。
「時間通りとは、珍しいな」
と言って振り向いた月詠は、小豆色の地に藍と鼠色で朝顔を染め抜いた柄が散らされた浴衣を着て、それに濃い深緑の帯と鼻緒の下駄を合わせていた。

どちらも普段は身に着けない色だったが、落ち着いた色合いが彼女の雰囲気によく合っていた。
頭は、前髪をサラリとおろし、普段ひっつめている後ろ髪がシンプルで長めの簪で結われていた。

(あぁ、こーゆーのも似合うな)
ぼーっと見ていたら

「ふむ。着崩していないのも新鮮じゃな。
濃紺も似合うのう。」
先に、自分の浴衣を褒められてしまった。

「サンキュ。
オメーも似合ってんぜ。」
「礼を言っておこう」
本心で褒めたのに、お世辞として流されてしまった。


「すぐそこの角曲がったら祭り会場だけど、屋台は帰りにするか?
食べながら蛍観るのも趣がないしよォ。」
「そうじゃな。暗がりで手が塞がるのは、避けたほうがいいじゃろう。」
「じゃあ、露店冷やかしながら、帰りに買うもの決めようぜ。」
「うむ。」

出店の出ている道を、2人でゆっくり見ながら歩いた。

「りんご飴は外せねーよなぁ。
あとチョコバナナと…
綿菓子って線もあるよなぁ〜
あーかき氷は何味にしよっかな〜」

「分かっておったが、全部甘いものじゃな。」
「たりめーだろ。
で、お前はどーすんだ?」
う〜んと考え込んで
「ラムネ…が良いかのう」
「お、いいじゃねーか。
うし、買うもん決まったし、先に蛍いくぞ」
「結局、全部買うつもりなのか…」

呆れ顔の月詠の手をさり気なく引き、その先の川岸へと向かう。

手を絡ませた瞬間にピクリと震えた指は、おずおずと握り返された。



→続く

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