鳴く声も聞こえぬ虫の想ひだに 1


「蛍、見に行かねーか?」
気付けば口をついて出ていた言葉。

先日、仕事で手伝った山間の旅館の外座敷で見た蛍があまりに綺麗で
(あぁ、アイツにも見せてやりたい)
と柄にもなく思ってたのは事実だけれど
だからと言って誘うつもりなんて、これっぽっちもなかったのに、無意識とは恐ろしいもんだ。

「蛍?」
と聞き返してきた反応の薄さから、やはりこの女はあの白緑の灯りを見たことがないのだと、確信した。

「やっぱ、見たことなかったか」
「ないのう」
「ちょうど今時分なんだよ、見頃は」
「そうなのか」
「近々、夜8時くらいから空かねーか?」

「そうじゃな…
明後日なら、空くと思うが」
「明後日か…
そういや、近くの蛍見物スポットの横で祭やるのも明後日だな。」

「そうか…
では、浴衣で行ったほうがよいかのう」

(え、浴衣着てくれんの?)
と思って、テンションが50pくらい上がったのは内緒だ。
平静を装って会話を続けた。
「おーその方がいいかもな。
俺も浴衣出しとくわ。」

そんな訳で浴衣で蛍見物デートが決定した。


→続く


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