そして両親
風呂に入り、髪を粗く乾かしてから、居間の炬燵に体を滑り込ませた。
湯に浸かって体が暖まったとはいえ、脱衣所でボディーケアをして髪を乾かし終わる頃には、少しばかり肌寒さを感じるくらいに気温は低い。
遠赤外線の熱がじんわりと足先から体温を上げてくれる。
月詠がついていたテレビを流し観していたら
「サッパリしたか?」
といって、淹れたての茶が入った湯飲みが横から差し入れられた。
「すまぬのう。」
「珍しく長湯だったから、のぼせてんじゃねェかと思ったけど、大丈夫だったみてェだな。」
月詠はそう言う男を見ながら
銀時が、様子を見に行こうと立ち上がった所で、月詠が湯船から出てくる音がしたので、その行き先を台所に変えて、やかんを火にかけてくれたのだと気付く。
「ありがとう。
色々と思い出して昔に想いを巡らせていたら、どうやら気が付かないうちに時間がたっていたようじゃな」
「ガキ共の事か?」
「あぁ。2人ともいつの間にか大きくなってしまった、と思っておった。」
「そうだな。早かったな。
オメーと会って一緒になって、ガキ出来るまでもあっと言う間だったけど、ガキが生まれてデカくなって出てくまでの方が遥かに早かったなァ」
しみじみとした声音だった。
「あぁ、本当にその通りじゃな」
もうここ何十年と、子供が何にしても第一だった。
バタバタと20年たち、2人とも立派に一人立ちしていった。
一抹の淋しさと成長の喜びが複雑に混じり合った気持ちだった。
「しかしなァ、大亜もオメーの誕生日の直前に嫁に行かなくてもいいのによォ」
「大安が4日だったのだから、仕方なかろう。
おめでたいことなんだから、文句をつけるでない。」
「まぁ、そうなんだけどな」
分かってはいるが、納得はしていないという表情だった。やはり寂しいのだろう。
「また、2人になりんしたなぁ」
「そーだな」
初めは1人だったのが2人になり、程なく4人になり、そしてまた2人になった。
不思議なものだ。
と思うと、自然と口元には穏やかな笑みが浮かんだ。
「銀時」
そう呼びかけてから、月詠は男の方へ身体を向けて続けた
「これからも、よろしく頼みんす」
言いながら、三つ指をついて頭をさげる。
すると焦った声がかかる
「え、ちょっ、何を急に改まったことしてんの?
いやいやいや、お願いするのこっちだから。ホント、俺のほうがもう断然お願いし倒すからァァァ
だから、やめてやめて〜
そいういうの、なしなしなし〜」
余りに予想外だったのだろう。
言っていることが支離滅裂である。
無理もない。恋仲になる前から、彼女に頭を下げられたことなど殆ど無いのだから。
顔をあげた女は楽しそうな笑みを浮かべて、慌てふためいている男をみている。
「面白いくらいの慌てっぷりじゃのう」
「うるせェェ
俺ァSなんだよ。予想外の展開に弱いんだよ」
その後、ぶつくさと「絶対その仏頂面ひっぺがしてやる」とか何とか呟いていた。
そんな銀時が、翌日の月詠の誕生日にこっそりとパーティーを企画していて
子供たちをはじめ、昔から仲の良いメンバーでサプライズをしようとしていることを、
まだ可笑しそうに笑い続ける月詠は、予想だにしていない。
その時に、驚きと喜びを一緒くたにした珍しい表情をする月詠が見られることを
銀時は楽しみに待っている。
HAPPY BIRTHDAY 月詠
【終わり】