千夜月待〜ひととせ〜T
こんな夢を見た。
女が言っていた
「お前は自分の事を忘れてしまうだろう」と
「忘れてしまって構わないから」と
「心配しなくて大丈夫。いつか忘れてしまうから。」と
顔も形もおぼろげで、声音もエコーがかかったように判然としない。
しかし、美しい女なのだろうということは分かった。
自分の頬に添えられた手のぬくもりと指先の感触がやけに懐かしい気がした。
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ふっと目が開いた。
涼しい夜明けの風音が外から聞こえる。
まだ明けきらない澄んだ朝日に染まっていく空気を感じる。
随分と早く目覚めたわりには、珍しく寝ざめが良い。
起き上って、大きく伸びをした。
そこで、目の横に少し冷たさを感じ、手で触れてみると、まなじりに一筋の涙の跡があった。
真新しいもののようで、まだ乾いていなかった。
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